「中小企業 マーケティング計画 作り方」で検索してこの記事にたどり着いた方の多くは、「集客に波がある」「広告を打っても、何が良かったのかわからない」といったモヤモヤを抱えているのではないでしょうか。
日々の業務に追われるなかで、チラシやSNS、Web広告など目の前の施策に飛びつき、その場しのぎの対応になってしまうことは珍しくありません。その結果、「忙しいのに売上が安定しない」「担当者が変わるたびにやり方がリセットされる」といった状態に陥りがちです。
こうした状況から抜け出すために欠かせないのが、一年間を見通したマーケティング計画です。「誰に・何を・どのように売るのか」を整理し、数字と行動に落とし込むことで、限られた予算や人員をどこに集中させるかがはっきりしてきます。
本記事では、専門用語を最小限に抑えながら、中小企業が自力で一年間のマーケティング計画を組み立てるための手順を、ゴール設定から月次の振り返りまで具体的にお伝えします。
中小企業のための一年間のマーケティング計画の立て方
「なんとなく集客」から卒業しませんか?
中小企業こそマーケティング計画が必要な理由
中小企業は、大企業のように「お金で失敗をカバーする」ことが難しいため、「思いつきの集客」ではなく「計画されたマーケティング」が重要になります。
マーケティング計画とは、「誰に・何を・どのように売るか」を一年単位で整理した事業の設計図です。これを作ることで、次のような効果が期待できます。
- 限られた予算や人員を、どこに優先的に使うか決められる
- 社長と担当者、現場メンバーの認識をそろえられる
- 成功・失敗の要因を振り返りやすくなる
- 事業計画や資金調達の場面で、根拠ある説明がしやすくなる
売上アップだけでなく、「再現性のある集客の仕組み」をつくる土台にもなります。特に、Web・SNS・メールなどデジタル施策が増えた今は、「どのチャネルに、どれだけ投資するか」をあらかじめ決めておくことで、ムダな施策を減らしやすくなります。
計画がないと起こりがちな3つの失敗例
計画がないまま進めると、次のような状況に陥りがちです。
-
「思いつき施策」でお金と時間が消える
毎月のように新しい広告やツールに手を出すものの、
・なぜやるのか
・どれくらい成果が出たのか
が曖昧なまま終わってしまうケースです。
中小企業向けのMAツールやSNS分析ツールは数多くありますが、「ツール導入=成果」ではありません。計画がないと、費用対効果を測れずに終わります。 -
「忙しいのに売上が安定しない」状態が続く
目の前の仕事に追われて、
・リピート対策
・既存客へのフォロー
・新規顧客の種まき
が後回しになり、売上の波が激しくなります。
本来は、既存客フォローやメール・LINE配信など、中長期の種まきこそ中小企業の収益を安定させる重要な仕事です。 -
属人化して「担当者が辞めたら何も残らない」
SNS運用やWeb広告などを担当者任せにし、ノウハウが共有されていない状態です。人が変わると、また一から試行錯誤のやり直しになってしまいます。
マーケティング計画を文書にしておけば、「どのターゲットに」「どんなメッセージを」「どのチャネルで届けているか」が残り、引き継ぎが格段に楽になります。
この記事でわかること・得られるもの
この記事では、マーケティングの専門家でなくても実践できる次の内容を具体的にお伝えします。
- 一年後のゴールの決め方
- 自社・市場・ターゲットの簡易分析方法
- 一年間の戦略の組み立て方(4P)
- 月ごとの「やることリスト」への落とし込み方
- デジタルツールの現実的な取り入れ方
- 毎月30分でできる振り返り方法
- そのまま使える一年間マーケティング計画のテンプレート案
「中小企業 マーケティング計画 作り方」を一から学びたい方に向けた実務的な内容です。一度作っておけば、翌年以降は「前年版を見直して更新する」だけで済むようになり、年々精度が高まっていきます。
まず「一年後のゴール」をはっきりさせる
中小企業が決めるべき5つの目標
マーケティング計画は、ゴールがはっきりしていないと機能しません。一年後に「どうなっていたいか」を、次の5つの観点で決めてみてください。
-
売上・利益
- 年間売上高(例:○○万円 → ○○万円に増やす)
- 粗利額・粗利率(例:粗利率を5ポイント改善)
- 重要な取引先・重点商品ごとの売上構成比
-
新規顧客数
- 一年間で獲得したい新規顧客数
- どのチャネルから何件獲得したいか(紹介・Web・チラシなど)
- どの地域・どの業種(BtoBの場合)から増やしたいか
-
リピート率・継続率
- 既存客の再購入率
- サブスク・定期契約の継続率
- 解約率・離脱率(やめる人をどれくらい減らしたいか)
-
単価・購買頻度
- 一回あたりの平均購入単価
- 年間の平均購入回数(来店回数・発注回数など)
- 上位顧客(売上上位20%)の年間購入額
-
認知・問い合わせ
- ホームページの問い合わせ件数
- 資料請求・見積もり依頼・来店予約件数
- SNSフォロワー数やメルマガ登録者数
- 主要キーワードでの検索順位や、名刺交換数(BtoB・展示会など)
「なんとなく増やしたい」をやめるには、「どの指標を、どれくらい増やしたいのか」をできるだけ具体的にすることが大切です。
例えば、
- 「売上をなんとなく増やしたい」ではなく
- 「既存顧客のリピート率を30%→40%に上げて、その結果として売上を15%増やす」
というように、“どの変化で売上を伸ばすのか”まで考えると、後の施策も決めやすくなります。これは事業計画や資金繰りの見通しとも直結するため、銀行や投資家への説明資料としても説得力が増します。
目標を数字に落とし込む簡単手順
SMARTに沿って目標を決める
SMARTとは、目標設定の有名なフレームワークです。
- S(Specific:具体的)
「売上アップ」ではなく「新規顧客数を○件増やす」のように具体的にすること。 - M(Measurable:測定可能)
数字で追えるかどうか。 - A(Achievable:達成可能)
過去の実績やリソースから見て、現実的かどうか。 - R(Relevant:関連性)
会社の方針・事業計画とつながっているか。 - T(Time-bound:期限付き)
いつまでに達成するのか。
中小企業の場合は、とくに「Achievable(達成可能)」を意識して、「頑張れば届きそうな少し背伸びした数字」を目指すのがおすすめです。
あまりに高すぎる目標は現場のモチベーションを下げてしまいますが、「昨年+10〜20%」程度の背伸び目標であれば、具体的な打ち手を考えやすくなります。
一年の数字を「四半期」「月」に分解する方法
年間目標が決まったら、それを「四半期」「月」に割り振ります。
例:年間新規顧客目標 120件
- 四半期:30件ずつ(3か月で30件)
- 月:10件ずつ
さらに、チャネル別に落とし込みます。
- 紹介:月4件
- Webサイト(問い合わせ):月3件
- SNSや広告から:月3件
こうすると、
「今月は新規顧客10件のうち、Webで3件取りたい」
と具体的な目標になり、施策や改善点が見えやすくなります。
慣れてきたら、「繁忙期は多め、閑散期は少なめ」といった季節変動も織り込んで、月ごとの目標に強弱をつけていきます。
自社と市場をざっくり分析する
30分でできる自社分析(強み・弱みの棚卸し)
精緻な分析表をつくる必要はありません。まずは30分でできる“ざっくり棚卸し”から始めましょう。
人・商品・価格・販売チャネルのチェックリスト
ノートやExcelに、次の4項目を縦に並べて書き出します。
-
人(People)
- 社長や社員の得意分野
- 顧客対応の丁寧さ・スピード
- 技術力・専門知識
- 社内にある資格・受賞歴・実績(年数・導入社数など)
-
商品・サービス(Product)
- 競合と比べたときの違い
- お客様からよく褒められる点
- クレームや不満が多い点
- 利益の出ている商品・サービスと、そうでないもの
-
価格(Price)
- 市場平均と比べて高いか安いか
- 利益は出ているか
- 値引き前提の価格設定になっていないか
- 「なぜこの価格なのか」を説明できる根拠があるか
-
販売チャネル(Place)
- 店頭・紹介・営業・Web・EC・電話など、実際にどこで売れているか
- それぞれのチャネルの売上比率
- 今後伸ばしたいチャネル
- 手間の割に成果が出ていないチャネル
それぞれに「強み」「弱み」を2〜3個ずつ書き出すだけでも、自社の現状が見えてきます。余裕があれば、「機会(チャンス)」「脅威(リスク)」も書き足すと、簡易的なSWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)が完成します。
中小企業が見落としがちな「隠れた強み」の見つけ方
中小企業は、大企業のようなブランド力や圧倒的な価格競争力は持ちにくい一方で、次のような“隠れた強み”を持っていることが多いです。
- 決裁が早く、柔軟に対応できる
- 顧客との距離が近く、個別対応ができる
- 地域密着で、口コミや紹介が起きやすい
- 特定の業界・地域に絞った専門性がある
- 長年の取引による信頼関係や、職人気質の丁寧な仕事ぶり
お客様からの「選んだ理由」「うれしかった点」を、あらためて3〜5件ほど聞き直してみると、思いがけない強みが見つかることがあります。
この“お客様目線の強み”は、後でWebサイトやチラシ、営業トークにそのまま活かせる非常に価値の高い素材になります。
競合と市場をざっくりつかむシンプルな方法
無料でできる競合リサーチ(検索・SNS・口コミ)
今すぐ無料でできる競合調査として、次の3つがあります。
-
検索エンジンで調べる
- 自社の商品名・サービス名
- エリア+業種(例:「横浜 工務店」「大阪 人材紹介」)
上位に出てくる競合の
- 価格帯
- 打ち出している強み
- 口コミ評価
をざっと確認します。
-
SNSで検索する
- 業種やサービス名でハッシュタグ・キーワード検索
- 競合アカウントの投稿内容・頻度・反応(いいね・コメント)
- お客様がどんな言葉で不満・要望を投稿しているか
-
口コミサイト・レビューサイトを見る
- Googleマップのクチコミ
- 業種ごとの専門サイト(飲食、医療、美容、BtoBなら比較サイトなど)
「高評価の理由」「低評価の理由」は、そのまま顧客のニーズ・不満として活用できます。競合の弱点は、自社の差別化ポイントのヒントにもなります。
市場の変化を把握するために見ておきたい情報源
中小企業がマーケティング計画をつくるうえで、最低限チェックしておきたい情報源は次の通りです。
- 業界団体や公的機関のレポート(中小企業庁、業界団体の調査資料など)
- ニュースサイトの業界ニュース
- 地域の商工会議所やよろず支援拠点の情報・セミナー資料
- 仕入先・取引先から聞ける現場の感覚(価格変動、需要の変化など)
細かい数字を追うよりも、
- 市場が伸びているのか縮んでいるのか
- どんな新しいサービスやビジネスモデルが出てきているか
といった“方向性”をつかむことが大切です。市場全体が縮んでいるなら既存顧客の深堀りを、成長市場なら新規開拓に力を入れるなど、戦略の大方針が見えてきます。
「誰に売るか」を一年かけて絞り込む
ターゲットを決める3つの質問
ターゲットを「30代男性」「企業の経営者」のように属性だけで決めてしまうと、実際の施策に落とし込みづらくなります。次の3つの質問に答えるつもりで整理してみてください。
- その人は、どんな課題や不安を抱えているか?
例:小さな飲食店の店主なら「集客が安定しない」「人手が足りない」 - その人は、どんな理想の状態を望んでいるか?
例:「常連が増えて売上が安定している」「休みがきちんと取れる」 - その人が購入・問い合わせに踏み切るきっかけは何か?
例:知人からの紹介/ネットでの比較検討/急なトラブル発生
「年齢・性別」だけでなく、
- 課題
- 理想
- 行動のきっかけ
までセットでイメージすることで、「どんな情報を・どこで・どのように届けるか」が決めやすくなります。この「ターゲットの課題→理想→行動のきっかけ」は、後で作るWebサイトの文章や広告コピーの軸にもなります。
ペルソナを1人だけ作ってみる
中小企業にちょうどいい“ゆるいペルソナ”の作り方
ペルソナとは、「最も典型的な理想のお客様像」を具体的な一人の人物として描いたものです。最初から細かく作り込みすぎる必要はありません。次の項目を1枚にまとめるだけで十分です。
- 年齢・性別・居住エリア
- 家族構成・職業・役職
- 1日の行動パターン(情報収集はスマホかPCか、どの時間帯か)
- 主な課題・不安
- 理想の状態
- 情報源(SNS・検索・人からの紹介など)
- よく使う言葉・口ぐせ(実際のお客様のフレーズが理想)
ペルソナは「一度決めたら終わり」ではなく、一年を通じて実際の顧客の声を反映しながらアップデートしていけば問題ありません。
BtoC・BtoBのペルソナ例
BtoCの例(美容院)
- 35歳・女性・既婚・子ども2人
- 週3日パート勤務
- 悩み:自分の時間が取れない、白髪が目立つが頻繁に美容院に行く時間がない
- 理想:短時間でキレイになれて、通いやすい価格と場所
- 情報源:Instagram、ママ友の口コミ、Googleマップのクチコミ
BtoBの例(ITサービス・クラウドツール)
- 45歳・男性・中小企業の総務部長
- 社員数50名、バックオフィス業務の効率化が課題
- 悩み:紙の申請が多くミスや手戻りが多い、リモート対応が遅れている
- 理想:オンラインで完結し、社員の手間も総務の手間も減らしたい
- 情報源:Google検索、業界セミナー、同業他社からの情報、専門メディア
一年を通じて、このペルソナに向けて「どんなメッセージを」「どのチャネルで」「どのタイミングで」届けるかを考えていきます。メールやSNSの発信内容を迷ったときは、「このペルソナが今一番知りたいことは何か?」と自問するとブレにくくなります。
一年間のマーケティング戦略の大枠を決める
4Pで考えるとブレない戦略になる
マーケティングの基本である「4P」を使うと、戦略の抜け漏れを防ぎやすくなります。中小企業向けのマーケティング計画テンプレートでも、この4Pはほぼ必ず盛り込まれています。
Product(商品・サービス)をどう見せるか
- どの機能・特徴を「一番の売り」として打ち出すか
- 競合との違いを、お客様の言葉でどう表現するか
- オプションやセット販売、サービスのパッケージ化ができないか
- 既存商品の組み合わせや見せ方を変えるだけで価値を高められないか
「うちの商品は何でもできます」と言うほど、顧客には伝わりにくくなります。一年間で「この分野なら◯◯社」と認識してもらう看板商品・看板サービスを決めておくと、メッセージに一貫性が出ます。看板商品を起点に、クロスセル(関連商品の提案)やアップセル(上位プランの提案)を設計していくと、単価アップにもつながります。
Price(価格)で失敗しないための考え方
価格戦略で大切なのは、ただ「安くする」のではなく、顧客が感じる価値とのバランスを取ることです。
- 原価・人件費・固定費を把握し、“赤字価格”を避ける
- 値引きではなく「セット化」「定期契約」「会員制」でお得感を出す
- 価格表を分かりやすくし、「見積もりのたびに値段が違う」印象をなくす
- 「初回お試し」「無料相談」など、入口のハードルを下げるメニューを用意する
中小企業では「競合より少し安く」となんとなく決めてしまうことが多いですが、「なぜこの価格なのか」を言語化しておくと、営業トークにも自信が持てます。
Place(集客チャネル)を絞り込むコツ
中小企業がやりがちなのは、「あれもこれも手を出して全部中途半端」になることです。一年間の計画では、「主力チャネル」を2〜3個に絞ることをおすすめします。
例:
- 店舗ビジネス:店頭+紹介+Googleマップ
- BtoB:既存顧客フォロー+紹介+Web問い合わせ(SEO)
それ以外のチャネルは「実験枠」として、負担にならない範囲で試す程度にとどめると、リソースが分散しにくくなります。チャネルごとに「どんなお客様が、どれくらい来ているのか」を大まかに把握しておくと、翌年のチャネル戦略の精度が上がります。
Promotion(販促)にお金をかけすぎないための視点
販促施策は、「短期的な集客」と「中長期的な信頼づくり」に分けて考えると整理しやすくなります。
- 短期的:キャンペーン、チラシ配布、Web広告など
- 中長期的:ブログ・コラム、メルマガ、SNSの情報発信、セミナー・勉強会
一年間の中で、
- 短期施策:売上が落ちやすいタイミングに集中的に実施
- 中長期施策:毎月コツコツ積み上げる
というバランスを意識すると、広告費のかけ方も見通しが立てやすくなります。特に中小企業では、「一時的な大きな広告」よりも、「小さな接点を継続して増やす」方が成果につながりやすいことを覚えておくと役立ちます。
中小企業に合う「勝ちパターン」の組み立て方
自社の状況に合わせて、次のどのパターンを軸にするか決めてみてください。
1. 既存客の深堀り型
- 特徴:既存顧客のリピート・単価アップに集中
- 向いている企業:顧客リストが既にある、リピートしやすい商材
施策例:
- 定期的なニュースレター・メルマガ・LINE配信
- 会員制度・ポイントカード・メンテナンスパック
- 既存顧客限定キャンペーン・アップセル提案
飲食店や美容院、BtoBの保守・サポートサービスなど、多くの中小企業で効果が出やすいパターンです。
2. 新規開拓集中型
- 特徴:新しい顧客・新しい市場を開拓する
- 向いている企業:新規事業立ち上げ直後、既存顧客が少ない
施策例:
- Webサイト・LPの強化、SEO対策
- SNS広告・検索連動型広告
- 展示会出展・セミナー開催
短期的にはコストがかかりやすいため、「一年でどこまで投資するか」「何をもって成功とするか」(問い合わせ件数・商談数など)を先に決めておくと、ブレにくくなります。
3. 紹介・リピート強化型
- 特徴:既存顧客からの紹介とリピートの両方を伸ばす
- 多くの中小企業にとって最もコストパフォーマンスの良いパターン
施策例:
- 紹介制度(紹介した側・された側の両方にメリット)
- 購入後フォローの徹底(お礼メール・ハガキ・電話)
- 定期接触(年数回のメンテナンス案内・キャンペーン案内)
この3つのうち、まずはどれをメイン戦略にするのか決めてから、月次施策に落とし込んでいきます。途中で数字を見ながら、「既存深堀り+紹介強化」のように組み合わせていっても構いません。
月ごとの「やることリスト」に落とし込む
年間→四半期→月に分解するステップ
年間の大きな流れを決める
- 年間目標と「勝ちパターン」(既存深堀り/新規集中/紹介・リピート)を決める
- 季節要因・業界の繁忙期を踏まえ、「売上を取りに行く時期」と「仕込みの時期」を大まかに分ける
- それぞれの時期に、どのチャネルを強化するか決める
例(飲食店):
- 3〜4月:新生活向けキャンペーン(新規開拓)
- 7〜8月:夏休み・イベントに合わせた集客
- 12月:忘年会需要に向けた早期予約キャンペーン
- 閑散期:メニュー開発、常連向けイベント、口コミ促進
例(BtoB企業):
- 4〜6月:新年度予算を狙った新規提案
- 10〜12月:次年度に向けた既存顧客への見直し提案
- 閑散期:事例作成、Web改善、セミナー企画
このように年間リズムをざっくり決めておくと、月次施策の設計がしやすくなります。
繁忙期・閑散期を前提にしたメリハリのつけ方
- 繁忙期:
・事前の予約・受注を増やす施策に集中する
・繁忙月には新しいことを増やしすぎない(現場が回らなくなるため) - 閑散期:
・Webサイト改善、コンテンツ作成、顧客リスト整備などの“仕込み”
・SEO、SNS、メルマガなど中長期的な施策の土台づくり
一年の「忙しい月」「余裕のある月」をカレンダーに書き込み、施策の重さを調整します。このメリハリによって、「忙しいときにマーケティングが止まり、その後の売上が落ちる」という悪循環を防ぎやすくなります。
具体的な施策を決めるチェックリスト
オフライン施策(チラシ・イベント・紹介)
- チラシ配布(ポスティング・店頭配布・同梱チラシ)
- 店頭イベント・キャンペーン(試食会・体験会・内覧会など)
- 紹介キャンペーン(紹介カード、紹介特典)
- 地域イベント・展示会への出展
- 名刺交換後のお礼ハガキ・パンフレット送付
オンライン施策(Webサイト・SEO・SNS・メール)
- Webサイトの改善(サービスページの見直し・事例掲載)
- ブログ・コラム更新(月◯本)
- SNS投稿(週◯回/テーマ:事例紹介・お役立ち情報・キャンペーンなど)
- メールマガジン・LINE配信(既存顧客向け)
- Web広告(予算◯円/月でテスト)
- 資料請求用のPDFやホワイトペーパー作成(BtoB向け)
予算と工数をざっくり見積もる方法
- 施策ごとに「お金」と「時間」を
- ◎:大きい
- ○:中くらい
- △:小さい
の3段階で評価する
- ◎が重なりすぎている月は、優先度の低いものから削る
- 「お金は少ないが時間がかかる施策」(SNS・ブログなど)は、担当者の負荷と相談し、現実的な頻度に調整する
少なくとも「今月は何をやるのか」がA4一枚で見えるようにしておくことが大切です。このA4一枚は、そのまま月次ミーティングの議題や社内共有資料としても使えます。
デジタルツールを上手に取り入れる
最低限押さえておきたいツール
中小企業の一年間マーケティング計画で、最低限そろえておきたいツールは次の3種類です。
-
顧客管理(簡易CRM)
・Excelでもクラウドツールでも構いません。
・「名前/連絡先/来店・購入履歴/紹介元/メモ」を記録できれば十分です。
・将来的にMA(マーケティングオートメーション)や本格CRMに移行する際も、この基本項目が整理されていればスムーズです。 -
SNS運用ツールまたは公式アカウント
・業種に合った主要SNS(Instagram・X・Facebook・LINEなど)の公式アカウント
・投稿履歴と反応の記録(どんな投稿が反応が良かったか)
・コメントやDMでの顧客の声をメモしておくと、商品改善やコンテンツづくりのヒントになります。 -
メール配信・アクセス解析
・メルマガ配信ツール、またはLINE公式アカウント
・Googleアナリティクスなどのアクセス解析ツール
・メールの開封率・クリック率、Webのアクセス数など、結果が数字で見えるようにしておきます。
これらは、マーケティング計画の「実行」と「効果測定」を支える基盤になります。最初から高機能なツールを入れる必要はなく、「記録して振り返れる状態」をつくることを優先しましょう。
お金をかけずに始めるデジタルマーケティング
無料・低コストツールの活用例
- 顧客管理:
- Excel+OneDrive/Googleスプレッドシート
- 無料枠のCRMツール(簡単な顧客管理ができるもの)
- メール配信:
- 無料プランのメルマガサービス
- LINE公式アカウント(無料枠内でスタート)
- アクセス解析:
- Googleアナリティクス、Search Console
- SNS運用:
- まずは1〜2つのSNSに絞り、公式アカウントのみでスタート
- 投稿テーマを3つ程度に決め、迷わず更新できるようにしておく
費用をかけるのは、「無料版で試して手応えがあり、もっと効率化したい」と思ってからでも遅くありません。いきなり高額ツールを導入するより、「小さく始めて、うまくいったものに予算を厚くしていく」方が、中小企業には適しています。
外注と内製の線引きの考え方
| 内製するべきこと | 外注してもよいこと |
|---|---|
|
|
「戦略とお客様との関係づくり」は社内で、「専門技術や手間のかかる作業」は外注、という線引きが現実的です。コンサルタントや専門家に「テンプレートの作り方」「初期設計」だけをスポットで依頼し、その後の運用は自社で行うというハイブリッド型も、コストを抑えつつノウハウを蓄積しやすい方法です。
「毎月30分」でできる振り返りと改善
絶対に追いかけたい3つの数字
毎月30分のミーティングで、最低限次の3種類の数字だけは確認しましょう。
-
反応数(集客の入口)
- 問い合わせ件数
- 来店数・資料請求数・見積もり依頼数
- Webサイトのアクセス数・SNSの反応数(いいね・保存・DMなど)
-
成約率・リピート率(売上への転換)
- 問い合わせから成約への割合
- 新規顧客がリピート顧客になる割合
- 解約率・離脱率(サブスク・継続サービスの場合)
-
費用対効果
- 広告費・販促費(チャネル別・施策別)
- その施策から生まれた売上・利益(ざっくりでも可)
「どの施策が、どの数字に影響しているか」を大まかに把握することで、翌月以降にやめる・強化する判断がしやすくなります。最初から完璧に紐づけられなくても、「この広告をやった月は問い合わせが増えた/変わらなかった」といったレベルで十分です。
PDCAを回すためのシンプルなテンプレート
振り返りシートの項目例
A4一枚の表に、次のような項目をつくります。
- 今月の目標(数字)
- 実績(数字)
- よかった点(うまくいった施策・想定外の成果)
- 課題・うまくいかなかった点
- 来月やること(続ける・やめる・新しくやる)
ここに主要なKPI(新規数・リピート率・単価など)を毎月記録していけば、1年後には「何をしたら、どんな結果になったか」の履歴が残り、翌年の計画づくりが格段に楽になります。
やめる施策・続ける施策・強化する施策の決め方
- やめる施策
- 手間がかかるのに、反応や売上につながっていない施策
- 担当者が負担に感じており、継続が難しいもの
- 続ける施策
- 反応や売上への影響は小さいが、将来的に効きそうな“種まき”施策(例:ブログ更新)
- コスト・工数が小さいが、一定の効果があるもの
- 強化する施策
- 明らかに成果が出ている施策(成約率が高い、リピートが増えているなど)
- 顧客の反応が良く、口コミや紹介につながっているもの
毎月、「やめること」を一つでも決めると、計画がどんどん洗練されていきます。「足すより減らす」を意識すると、限られたリソースでも続けやすいマーケティングの仕組みができていきます。
よくあるつまずきポイントと対処法
中小企業が陥りがちな失敗パターン
-
「手段先行」でツールだけ導入してしまう
MAツール・高額なCRM・広告配信ツールなどを入れたものの、使いこなせずに終わってしまうケースです。
→ 対処法:まずはExcelや無料ツールで運用し、「ここがボトルネック」と分かってから投資するようにします。ツール導入は計画の最後の一手と考えるのが安全です。 -
目標が曖昧で評価できない
「売上アップ」「ブランド力向上」など抽象的な目標だけでは、評価ができません。
→ 対処法:少なくとも- 新規顧客数
- リピート率
- 単価
のいずれかに具体的な数字を入れます。事業計画のKPIと連動させておくと、社内の納得感も高まりやすくなります。
-
担当者任せで社内共有されない
SNS担当・Web担当だけが情報を持ち、経営者や他のスタッフは状況を知らない状態です。
→ 対処法:月1回・30分の共有ミーティングを設定し、A4一枚のレポートで全員が状況を把握できるようにします。現場の声を聞きながら、来月の施策を一緒に決める場にすると、理解と協力が得られやすくなります。
忙しくても一年間続けるための工夫
担当者と経営者の役割分担
| 経営者の役割 | 担当者の役割 |
|---|---|
|
|
「経営者が全部やる」「担当者に丸投げする」のではなく、それぞれの役割を明確にします。特に中小企業では、経営者がマーケティング計画の重要性を理解し、時間を確保する姿勢を見せることが継続のカギになります。
会議・報告の頻度とフォーマットの決め方
- 月1回・30分の定例ミーティングを固定する
- 日時を決め、原則として変更しない
- A4一枚のフォーマットに沿って報告するだけにする
フォーマット例:
- 今月の目標と結果
- 主要KPI(新規数・リピート率・広告費など)
- よかった施策・悪かった施策
- 来月やること(3つ以内)
この程度にシンプルにしておくと、忙しい中でも一年間続けやすくなります。必要に応じて、商工会議所や専門家の無料相談を活用し、「振り返りシートのチェック」「第三者の視点での助言」をもらうのも有効です。
すぐに使える「一年間マーケティング計画」テンプレート案
そのまま書き込める項目一覧
以下の項目を、A4〜A3の1〜2枚にまとめるイメージです。
-
基本情報
- 事業概要・主要商品/サービス
- 主要な顧客層・エリア
-
目標
- 年間売上目標
- 新規顧客数目標
- リピート率・単価などの重点指標
- 目標達成に向けた大まかな数字のシナリオ(どの指標をどれくらい伸ばすか)
-
ターゲット(ペルソナ)
- 基本属性
- 課題・理想・情報源
- 購入の決め手・迷うポイント
-
戦略(4P)
- Product:看板商品・差別化ポイント
- Price:価格戦略・値引き方針
- Place:主力チャネル(2〜3つ)
- Promotion:年間を通して行う主な施策
-
年間スケジュール(ざっくり)
- 四半期ごとの重点テーマ
- 繁忙期・閑散期のメモ
- 大きなイベント・キャンペーンの予定
-
月次施策一覧
- 月ごとの主要施策(3〜5個程度)
- 予算の目安・担当者
- 想定されるKPI(問い合わせ数・来店数など)
-
KPI(指標)と記録欄
- 月ごとの新規顧客数
- リピート率
- 主要チャネル別の反応数
- 広告費・販促費
社内共有用の簡易フォーマット例
- 1枚目:目標・ターゲット・戦略(4P)のまとめ
- 2枚目:年間カレンダー(12か月)に主要施策を記入
- 3枚目:月次の実績と振り返り用シート
この3枚があれば、社内の誰が見ても「今年、何を目指して、何をやるのか」が分かる状態になります。金融機関や支援機関に相談する際の資料としても、そのまま活用しやすい構成です。
明日から着手するための3ステップ
1. 今日やること
- A4の紙を一枚用意し、「一年後にこうなっていたい」という理想を書き出す
- 売上・新規顧客・リピート率の3つについて、ざっくりでよいので数字を置いてみる
- 「どの数字を伸ばすのが現実的か」を、過去の実績と照らし合わせて考えてみる
2. 今週やること
- 自社の強み・弱みを30分で棚卸しする
- 競合を3社だけ調べて、違いをメモする
- 代表的なお客様1人を思い浮かべて、簡単なペルソナを書いてみる
- 使えそうな無料ツール(顧客管理・メール・アクセス解析)に登録してみる
3. 今月やること
- 年間の「繁忙期/閑散期」「売上を取りに行く月/仕込みの月」を決める
- 主力チャネルを2〜3個に絞る
- 来月からの「月次ミーティング(30分)」の日程を決める
- 上記テンプレート案をベースに、自社版の一年間マーケティング計画をA4〜A3で1〜2枚作ってみる
マーケティング計画は、一度作って終わりではなく“一年かけて改善していくもの”です。完璧を目指す必要はありません。まずは小さく始め、数字を見ながら少しずつ修正していくことが、中小企業にとって無理なく続けられるマーケティング計画の作り方です。
一年間のマーケティング計画は、「立派な資料」を作ることよりも、「現場で使い続けられるかどうか」がポイントになります。本記事でお伝えしたように、まずは一年後の具体的なゴールを数字で置き、自社と競合、市場をざっくり整理し、「誰に売るのか」を一人のペルソナに落とし込んでみてください。そのうえで、4Pで戦略の骨組みを決め、繁忙期・閑散期を踏まえた年間の流れをつくり、月ごとの「やることリスト」に分解していきます。
完璧な分析や高価なツールは必須ではありません。Excelや無料ツール、A4数枚のシートでも、数字と行動を毎月30分だけ振り返る習慣があれば、計画は自然と精度が上がっていきます。最初の一年は試行錯誤の連続かもしれませんが、「今年の仮説」を形にしておくことで、翌年以降は修正と更新だけで済むようになります。今日できる小さな一歩から、一年かけて自社なりのマーケティングの型を育てていきましょう。