Webマーケティングを自社で内製化したい時に考えるべきこと

目次

「自社でWebマーケティングを内製化する」とは何か

「自社でWebマーケティングを内製化する」とは、これまで代理店や制作会社に任せていたSEO、Web広告運用、SNS運用、コンテンツ制作、アクセス解析などの業務を、自社メンバー主体で企画から実行・改善まで回せる体制をつくることを指します。
2020年以降のデジタルシフトや広告費高騰を背景に、中小企業・BtoB企業を中心に「外注中心 → ハイブリッド → 内製中心」という流れが加速しており、2025年現在では、1名体制でも6割以上の企業が何らかの形で内製化に踏み出していると言われています。

ポイントは「すべてをいきなり自社でやる」ことではなく、次の3点を満たす方向に段階的にシフトすることです。

  • アカウントやデータは自社名義で持つ(データ主権を確保する)
  • 戦略や優先順位を自社で決められる
  • 日々の更新・改善を社内で回せる

特に「アカウントやデータを自社で持つ」ことは、将来的に代理店を変更したり、完全内製に切り替えたりするときにも、スムーズに移行できる土台になります。

実務としては、次のようなフローを社内担当者(1名以上)を中心に回せるようにすることが目標です。

  • キーワード調査・コンテンツ企画・ライティング
  • Google広告・SNS広告などの入札・クリエイティブ改善
  • サイトの簡易修正、LPのABテスト
  • Google Analytics(GA4)、Search Consoleなどでの分析
  • CRMやMAツールと連携したリード管理

このとき、WordPressなどのCMS・GA4・簡易なMAツールを組み合わせた「社内で更新・分析できる基盤」を整えることが、内製化の技術的な第一歩になります。

また、外注を一切使わない「完全内製」にこだわる必要はありません。
「戦略と難易度の高い部分は外部、運用と日々の改善は自社」といったハイブリッド型も、実務的には内製化の一形態です。多くの成功企業は、最初の6ヶ月程度は外部パートナーの支援を受けながらノウハウを移管し、その後徐々に自走比率を高めるステップを踏んでいます。

なぜ今、Webマーケティングの内製化が求められているのか

外注依存から脱却したい企業が増えている背景

ここ数年、「代理店任せから脱却したい」という相談が増えている背景には、次のような事情があります。

  • 広告費・外注費が年々高騰し、費用対効果が見えづらい
  • アカウントやデータを代理店側に握られており、自社にノウハウが残らない
  • ちょっとした修正やテストでも見積もり・稟議が必要でスピードが落ちる
  • GoogleやSNSのアルゴリズム変更が頻繁で、「丸投げ」だけでは成果が安定しない

外注ベースだと「月1回のレポートレビュー+スポット修正」に終始しやすく、日々の細かなABテストやサイト改善が後回しになりがちです。結果として、広告費を投下しても「どの施策が効いているのか」「なぜ成果が出ないのか」が社内で説明できず、意思決定がブラックボックス化しやすくなります。

特にPPC広告やSEOは環境変化が激しく、「自社で数字を理解し、打ち手を考えられる体制」でないと、長期的な改善が難しくなっています。Cookie規制や計測仕様の変更など、「計測そのものの設計」を理解していないと、外注任せのままでは突然成果指標が読めなくなるリスクも高まります。

中小企業・BtoB企業で内製化が進む理由

中小企業やBtoB企業では、次のような理由から内製化が加速しています。

  • 1件あたりの受注単価が高く、少ないリードでも売上インパクトが大きい
    → 月数件の良質リードを安定獲得できれば十分ペイする
  • ニッチな専門分野が多く、外注だけでは「専門性の高いコンテンツ」を作りにくい
  • 営業とマーケが密に連携しやすく、Web経由の商談・受注データをすぐ改善に反映できる
  • コロナ禍以降、展示会・対面営業に依存しない集客チャネルが必須になった

製造業などのBtoB領域では、「プロダクトの細かい仕様・強みを理解しているのは社内だけ」というケースが多く、外注ライターだけでは本質的な価値が伝わりにくいという課題があります。このギャップを埋めるためにも、社内の技術者や営業がコンテンツ制作に関わる内製型の体制が重視されています。

また、AIライティングや広告自動入札などのツール進化により、「少人数・中堅スキルでも一定レベルの施策を打てる」環境が整ってきたことも、内製化の追い風になっています。従来であれば専任のSEOコンサルや広告運用者が必要だった領域も、生成AIを活用したキーワード提案や文章作成、媒体自体の自動最適化機能により、「1人マーケ+外部支援少し」で十分戦えるケースが増えています。

自社でWebマーケティングを内製化するメリット・デメリット

内製化の主なメリット

コスト削減と投資対効果の見える化

  • これまで代理店や制作会社に毎月数十万円払っていた費用を、「ツール費用(数万円)+担当者の人件費」に振り替えられます。特にSEO記事制作やLP制作を外注していた企業では、「1本数十万円の制作費 → 内製+一部外注で単価圧縮」という形で、長期的なコスト構造を改善しやすくなります。
  • 自社内で「どのチャネルに、いくら投資して、どれだけリード・売上が出ているか」をダイレクトに把握できるようになるため、投資対効果の判断がしやすくなります。CRMやMAツールと連携すると、「問い合わせ → 商談 → 受注」までのCPAやLTVも自前で算出でき、チャネルごとの投資配分を自社で主体的にコントロールできます。
  • コンテンツやSEOは、一度作った資産が中長期で集客し続けるため、長期視点ではROIが高くなりやすい領域です。内製化でコンテンツを継続的に蓄積し、2〜3年でオーガニック流入や問い合わせ数が数倍〜十数倍になった事例も多く報告されています。

自社にノウハウが蓄積される

内製化の本質的な価値は「ノウハウが会社に残る」ことです。

  • どのキーワード・どの訴求・どのチャネルが自社の顧客に刺さるのか
  • 自社の商材は、どのようなストーリーで伝えると受注率が上がるのか
  • 営業との連携で、どのリードが有望か(受注につながるか)

こうした知見が担当者だけでなく組織に共有されていくことで、広告やコンテンツ以外の施策(営業資料、セミナー、展示会など)にも横展開できます。

さらに、

  • 「どのタイミングでどんなコンテンツを提示すると商談化しやすいか」
  • 「どのメールシナリオが解約抑止・アップセルに効くか」

といったMA・CRM領域のノウハウも社内に蓄積されるため、マーケティングだけでなく、CSやインサイドセールスの生産性向上にもつながります。この「マーケ〜営業〜CSをまたぐ横断的な学び」は、外注中心の運用では得にくいポイントです。

データ主権を確保し、PDCAを高速で回せる

  • 広告アカウントや解析ツールを自社名義で管理することで、施策の履歴・顧客データがすべて自社の資産になります。代理店変更やツールリプレイスの際にも、過去データを失わずに引き継げるため、長期的なマーケティング戦略を組み立てやすくなります。
  • 分析 → 仮説 → 改善を社内会議ですぐに回せるため、「代理店への依頼待ち」や「レポート待ち」で時間を浪費せずに済みます。特にLPの文言修正やCTA位置変更など「小さいけれど効く改善」は、内製でないとスピード感を持って回しづらい部分です。
  • GA4、Search Console、広告の管理画面、CRMをつなぎ、「問い合わせ → 商談 → 受注」までのファネルをデータで追えるようになると、一部のチャネルに依存しない、安定した集客基盤を作りやすくなります。これはCookie規制や媒体仕様変更の影響が強まる中で、「自社ファーストパーティデータを軸にPDCAを回す」ための重要な前提条件とも言えます。

内製化のリスク・デメリット

専任人材の確保と教育コスト

  • 最低でも「マーケティング担当1名分」の工数は必要です。
  • 教材・セミナー・外部コンサルなどを活用しながら、6ヶ月〜1年かけて育成する前提で考える必要があります。多くの支援会社は「基礎学習 → 伴走実践 → 自走」の3フェーズでロードマップを提示しており、短期的に即戦力を求めすぎないことが現実的です。
  • 担当者が退職した場合のリスク(ノウハウ流出)もあるため、マニュアル化・共有フォルダ整備など「属人化を防ぐ仕組みづくり」が欠かせません。実際、内製化に失敗した企業の多くは、専任不在・OJTのみ・マニュアルなしといった状態で、担当者の異動・退職をきっかけに運用が頓挫しています。

スキル不足による成果停滞のリスク

  • 自社に経験者がおらず、学習も浅い状態で「全部内製」で始めると、何をしても成果が出ない期間が長引きやすくなります。
  • 特に、競合が強いキーワードでのSEOや、高度な広告運用(入札戦略、クリエイティブ検証)などは、専門性不足がそのまま成果の差につながりやすい領域です。
  • 「学びながらでも戦える領域」と「プロの力を借りるべき領域」を切り分けることが重要です。その意味で、戦略設計・技術的な土台づくり・高度な分析だけ外部に任せるハイブリッドモデルは、スキル不足リスクを抑えつつ内製化を進める現実的な選択肢と言えます。

トレンド追従やアルゴリズム変化への対応ハードル

  • GoogleのアップデートやSNSの仕様変更、Cookie規制など、Webマーケティングを取り巻く環境は毎年変化しています。
  • 専任担当者が、日々の運用と並行して情報収集・検証を続ける必要があり、中小企業では負担が大きくなりがちです。
  • この負担を補うために、「戦略レビューだけ外部の専門家に依頼する」といったハイブリッド型の体制設計が有効です。半年〜年1回の「健康診断」として、サイトや広告アカウントの第三者レビューを受ける企業も増えており、「完全に外注をやめる」のではなく「外注の使い方を変える」という発想が重要になっています。

まず「自社に向いているか」を見極めるチェックポイント

内製化に向いている会社・向いていない会社

事業規模・商材単価・営業スタイルから見る向き不向き

【内製化に向いている会社の例】

  • BtoB/高単価商材(1件の受注で数十万〜数百万円以上)
  • 既に営業組織があり、「Web経由のリードを営業に渡せば売れる」体制がある
  • 年間でWebマーケ関連に一定の予算(例:300万〜1,000万円以上)を投下できる
  • 3〜6ヶ月以上の中長期視点で施策に取り組める

このような企業は、少ないリードでも売上インパクトが大きく、「少しずつ育てる」内製型マーケティングとの相性が良いです。製造業・IT・専門サービスなど、既に対面営業で売れている商材があり、その勝ちパターンをWebに展開したい場合も、内製化のリターンが大きくなりやすい領域です。

【向いていない/慎重に進めるべき会社の例】

  • 超小規模で、マーケティングに割ける人員がほぼゼロ
  • すぐにキャッシュが必要で、「今月中に確実に結果が欲しい」状況
  • 事業そのものがまだ固まっておらず、ターゲットや提供価値が頻繁に変わる
  • 経営層が「安く、すぐ、楽に成果を出したい」と短期目線だけを求めている

このようなケースでは、まずはスポットで外部パートナーを活用し、事業・プロダクトの方向性を固めることを優先した方が、結果的に内製化もうまくいきやすくなります。

経営層のスタンスと社内文化の影響

内製化は「仕組みづくりへの投資」です。そのため、経営層のスタンスと社内文化が大きく影響します。

  • 失敗を許容し、小さなチャレンジを促す文化があるか
  • 数字をオープンにして、部署をまたいだ議論ができるか
  • 担当者に一定の裁量と時間を与えられるか

一方で、

  • 「広告は代理店に丸投げするもの」という固定観念が強い
  • 失敗を恐れてチャレンジが評価されない
  • 担当者が常に雑務に追われ、学習の時間が確保できない

といった環境では、内製化を進めても形骸化しやすくなります。成功している内製化企業の多くは、「半年〜1年は学習・仕組み化に投資する」という前提を経営層が理解しており、短期のCPAだけでなく、中長期のデータ資産・ノウハウ蓄積を評価軸に含めています。

内製化前に整理しておくべき3つの前提

1. 目的:何を達成したいのか(売上/リード/採用など)

  • 売上を増やしたいのか
  • 商談数・資料請求数などのリードを増やしたいのか
  • 採用応募を増やしたいのか
  • 既存顧客とのエンゲージメントを高めたいのか

目的によって選ぶべきチャネルやコンテンツの方向性が変わります。「とにかくアクセスを増やしたい」だけでは、施策の優先順位がつきません。

たとえば、

  • 採用目的であれば、オウンドメディアよりもまず採用LP・求人媒体連携・社員インタビュー記事が優先
  • 既存顧客のエンゲージメント向上なら、メルマガ・会員向けコンテンツ・セミナー運営が重要

といったように、「誰の、どの行動を変えたいのか」まで具体化してから内製化の範囲を決めると、ブレにくくなります。

2. 期間:どのくらいのスパンで成果を見込むか

  • 広告:1〜3ヶ月で反応の有無は見えやすい
  • SEO・コンテンツ:3〜6ヶ月、場合によっては1年以上のスパンが必要
  • SNS:半年〜1年かけてフォロワー・エンゲージメントを育てる感覚

「半年でSEOから○件/月のリードを目指す」「最初の3ヶ月は広告で仮説検証」といったように、チャネルごとに現実的な時間軸を持っておくと、社内の期待値調整もしやすくなります。成功企業の多くは、「短期は広告で仮説検証 → 中長期でSEO・コンテンツ強化」という二段構えを取り、1〜2年スパンでトータルの集客基盤を整えています。

3. 予算:外注費を人件費・ツール費に振り替えられるか

  • 現在、代理店・制作会社に年間いくら支払っているか
  • その一部(または全部)を「社内担当者+ツール投資」に振り替えられるか
  • 少なくとも6〜12ヶ月は安定的に投資を継続できるか

内製化は短期では外注よりコスト高になることもありますが、2年・3年というスパンで見ると、ノウハウ蓄積も含めたリターンが大きくなりやすい取り組みです。「いまの外注費の○割を、専任1名+ツールに置き換えたらどうなるか」をシミュレーションし、採用・教育コストも含めて経営層と合意を取っておくと、途中で頓挫しづらくなります。

自社で内製化する範囲をどう決めるか

すべて内製するのか、ハイブリッドにするのか

「全部自社でやらないと意味がない」と考える必要はありません。現実的には、次のようなハイブリッド型がもっとも成果を出しやすいです。

  • 戦略設計・チャネル選定・年次の見直し:外部パートナーと一緒に検討
  • 日々の運用・コンテンツ更新・数値モニタリング:自社担当

たとえば、

  • 半年〜1年は代理店に広告を運用してもらいながら、その間に社内担当がレポートの見方・改善の考え方を徹底的に学ぶ
  • SEOの技術的な土台(サイト構造・内部リンク設計など)は外部に任せ、その上のコンテンツ制作・更新は自社で回す

といった「移行期間」を設ける企業が増えています。このような段階的移行は、「いきなり全部を自前でやろうとして失敗する」典型パターンを避けるためにも有効で、外注費を削りつつも、必要な知見は計画的に取り込めます。

SEO/広告/SNS/コンテンツで切り分ける基準

ざっくりとした切り分けの考え方は次の通りです。

  • SEO
    ・キーワード選定・コンテンツ企画・ライティング:内製向き
    ・サイト構造改善・大規模なリニューアル:外部活用も検討
  • 広告
    ・日々の入札調整・クリエイティブ改善の指示出し:内製可能
    ・高度な配信設計・複数媒体の統合運用:経験がなければ外部併用
  • SNS
    ・日々の投稿・顧客とのコミュニケーション:内製向き
    ・インフルエンサー施策・大規模キャンペーン:外部支援を検討
  • コンテンツ
    ・自社の事例・ノウハウ・Q&A:内製が望ましい
    ・専門性の高いライティング・動画撮影編集:部分的に外注

特に、「顧客理解」が必要な部分は内製、「専門ツール・高い技術が必要な部分は外部」という線引きをすると、無理なくハイブリッド体制を作りやすくなります。将来的には、内製比率を8割程度まで高め、戦略レビューや大規模改修だけ外部に任せるモデルを目指す企業が増えています。

優先的に内製化しやすい領域・しにくい領域

内製向き:コンテンツ制作、簡易なSEO、データ計測

  • 自社の強みや顧客の課題をよく知っているのは社内メンバーです。
  • FAQ、事例紹介、ホワイトペーパー、ブログ記事などは、営業や現場の声をもとに内製することで、外注では出せない「リアルさ」が伝わります。
  • また、GA4の基本設定や問い合わせフォームの計測設定、主要KPIを見られる簡易ダッシュボードの作成など、「データを見られる状態」を作る部分も内製の優先度が高い領域です。

こうした「基礎コンテンツ+基礎計測」を内製で押さえておくと、外部パートナーに依頼する場合も議論の質が上がり、「丸投げ」ではなく「共創」に近い関係を築きやすくなります。成功事例でも、まずはこのレベルの内製から始めて、半年〜1年かけて高度な施策へ範囲を広げていくパターンが一般的です。

外部活用を残しやすい領域:高度な広告運用、サイト改修など

  • 大規模なサイトリニューアル、複雑なシステム連携が絡む改修
  • 年間数千万円以上の広告運用、複数媒体をまたいだアトリビューション分析
  • 高度なタグマネジメント、サーバーサイドトラッキングなど

このあたりは経験と専門知識の差が成果に直結しやすいため、内製化を急がず、専門家の力を借りる方が結果的にコスト効率が良いケースも多いです。特に、Cookieレス時代の計測設計やデータ統合基盤の構築などは、一度プロに設計してもらい、その後の運用・簡易改修を内製で行うハイブリッド構成が現実的です。

内製化に必要な人材・体制の考え方

最低限押さえたい「1人目のマーケ担当」の役割

「1人目のマーケティング担当」は、単なる作業者ではなく、社内のハブとなるディレクター的な役割を担います。

  • 経営層と話し、Webマーケティングの目的・予算・KPIを整理する
  • 営業・開発・カスタマーサクセスから情報を集め、施策に反映する
  • 外部パートナーとコミュニケーションし、ノウハウを吸収する
  • 数字(アクセス・CV・商談・受注)を見て改善点を洗い出す

技術的なことは外部や他メンバーの力を借りつつも、「全体像を理解し、優先順位をつけ、社内外を動かす人」というイメージです。6ヶ月程度のOJTを通じて、「広告・SEO・コンテンツ・分析を一通り理解したゼネラリスト」を育て、その後専門領域を広げていくのが、多くの内製化支援会社が推奨するパターンです。

営業・開発・カスタマーサクセスとの連携ポイント

  • 営業
    ・どのリードが受注につながりやすいか
    ・商談でよく聞かれる質問・断られる理由は何か
  • 開発・製造
    ・新機能・新製品の情報
    ・技術的な強み・競合との違い
  • カスタマーサクセス・サポート
    ・既存顧客がつまずきやすいポイント
    ・解約理由・アップセルの成功パターン

これらを継続的にヒアリングし、コンテンツや訴求に反映させていくことで、「現場とズレたマーケティング」にならないようにします。製造業の成功事例では、営業・技術者・マーケが三位一体でオウンドメディアを運営し、現場のナレッジをコンテンツ化することで、ニッチなキーワードでの上位表示と高品質リード獲得を実現しています。

どの業務を誰が担うか

企画/ライティング/広告運用/分析の切り分け方

  • 企画・ディレクション:1人目のマーケ担当
  • ライティング:
    ・社内メンバー(営業・エンジニア)+編集担当
    ・足りない部分は外部ライターを併用
  • 広告運用:
    ・初期設計と高度な最適化は代理店
    ・日々の入札調整・レポート解釈は社内担当
  • 分析:
    ・GA4や広告管理画面の基本的な見方は担当者が習得
    ・大きな分析・ダッシュボード設計は外部支援も可

このように役割分担を明確にしたうえで、「どこまでを内製・どこからを外注」と線引きしておくと、メンバーの入れ替わりがあっても体制が崩れにくくなります。

兼任体制でスタートする場合の注意点

  • 営業や総務と兼任でマーケティングを任せる場合、「週に何時間をマーケに使うのか」を明確にしておく
  • 社内で「マーケ業務は後回しにしてよい雑務」ではなく、事業の基盤づくりとして優先順位を高く位置づける
  • 3ヶ月〜半年ごとに業務量と成果を見ながら、どこかのタイミングで専任化・増員を検討する前提を持つ

兼任スタートは中小企業では一般的ですが、「いつまでも兼任のまま」「評価指標が曖昧」の状態が続くと、内製化が形骸化しやすくなります。評価指標(例:リード数・商談数・CVR改善など)を人事評価と連動させる企業も増えています。

内製化ロードマップ:6〜12ヶ月で自走体制を作るステップ

フェーズ1:理解と準備(0〜2ヶ月)

現状のWeb集客状況の棚卸し

  • 既存サイトのアクセス数・流入チャネル・CV数
  • 現在出稿している広告媒体・予算・CPA
  • どのキーワードで流入しているか(Search Console)
  • 過去の施策(キャンペーン、LP、コンテンツ)の成果

これらを数枚のスライドやドキュメントに整理し、経営層・関係部署と共有して「今どこにいるのか」を明確にします。この「現状地図」があることで、内製化のゴール設定や、最初に手を付けるチャネルの優先順位が見えやすくなります。

KPI・KGIの設定と簡易戦略立案

  • KGI(最終目標)の例
    ・Web経由売上を○万円/月に
    ・マーケ経由の商談を○件/月に
  • KPI(追いかける指標)の例
    ・問い合わせ数、資料請求数、セミナー申込数
    ・目標キーワードの検索順位、LPのCVR、クリック単価

「どのチャネルにどれだけ期待するか」「優先順位は何か」をシンプルでもよいので紙に落とし込みます。ここでは完璧な戦略を目指す必要はなく、3〜6ヶ月ごとに見直すことを前提に、仮説レベルでもよいので方向性を決めておくことが重要です。

必要なツール・アカウントの洗い出し

  • CMS(WordPressなど)
  • GA4、Search Consoleの設定と権限整理
  • 広告アカウント(Google広告、Meta広告等)を自社名義で発行
  • キーワード調査ツール、広告管理ツール
  • 社内共有用のドキュメントツール(Google Workspace、Notionなど)

「まずは最低限のセット」で始めることがポイントです。特に、解析・広告アカウントの権限を整理し、「誰が何にアクセスできるか」を明確にしておくと、情報共有とセキュリティの両立がしやすくなります。

フェーズ2:外部支援を活用しながらの実践(2〜6ヶ月)

まずは1チャネルに絞って始める(SEOまたは広告など)

  • いきなりSEOも広告もSNSもと手を広げると、どれも中途半端になりがちです。
  • 事業フェーズや目的に応じて、
    ・早期にリードが欲しい → 広告
    ・中長期の資産を作りたい → SEO/コンテンツ
    のように、まず「1チャネル」に集中して型を作ります。

成功事例でも、「最初の半年は広告でCVポイントや訴求をテスト → うまくいったパターンをもとにコンテンツ拡充」という流れを取る企業が多く、1チャネルで勝ちパターンを作ってから横展開する方が、学習効率も高くなります。

外注パートナーから「やり方」を学ぶポイント

  • 毎月のレポートを「受け取るだけ」にせず、
    ・なぜこの施策を選んだのか
    ・うまくいった/いかなかった要因は何か
    ・次の一手は何を考えているか
    を具体的に質問しながら学びます。
  • 可能であれば、
    ・キャンペーンや広告グループの設計
    ・クリエイティブのABテスト案
    ・キーワードの選定ロジック
    といったドキュメントも共有してもらい、社内ナレッジとして蓄積します。

このとき、「ミーティング録画」「議事録」「設定シート」などをきちんと残しておくと、担当者が変わっても社内にノウハウを引き継ぎやすくなります。

小さなPDCAを回しながら型を作る

  • 月次/隔週の定例ミーティングで、「数字 → 原因仮説 → 打ち手」をシンプルに議論する習慣をつくります。
  • あわせて、
    ・レポートテンプレート
    ・会議のアジェンダ
    ・施策管理シート(何をいつ、誰がやるか)
    を整備しておくと、後の標準化フェーズがスムーズになります。

「毎回、必ず1つはテストを仕込む」「テストの結果を次回会議で共有し、次の仮説につなげる」といったルールを決めておくと、内製化後も自然とPDCAが回る文化を育てやすくなります。

フェーズ3:運用フローの標準化・完全内製(6ヶ月〜)

マニュアル・チェックリスト・テンプレートの整備

  • 広告の新規キャンペーンを立ち上げるときの手順書
  • ブログ記事を1本公開するまでのチェックリスト
  • 月次レポートの雛形、KPIダッシュボード

など、「担当者が変わっても同じレベルで回せる状態」を目指します。この段階で、内製できる範囲・外部に任せる範囲を改めて整理し、「運用フロー図」や「RACI(誰が責任者か)」を明文化しておくと、社内外の連携がスムーズになります。

数値レポートと改善会議のルーティン化

  • 月次レポートを関係者に共有し、30〜60分の改善会議を必ずセットで行う
  • 3ヶ月に1回は、KPI・チャネル配分を見直す「ミニ戦略会議」を行う

「数字を見て終わり」ではなく、「次に何をやるか」まで毎回決めることが重要です。この場に営業・CSも巻き込むことで、「マーケだけの数字」ではなく「受注・LTVまでを見据えた議論」ができるようになり、内製化の価値が事業全体で共有されやすくなります。

新人でも回せる状態にするための仕組みづくり

  • ツールの使い方を動画や手順書にまとめておく
  • 過去の成功事例・失敗事例をナレッジとして保管しておく
  • 新任担当者向けのオンボーディングプログラム(1〜2ヶ月)を簡易でも用意する

こうした仕組みがあれば、担当者が変わっても内製体制を維持しやすくなります。人材流動性が高い現代において、「人ではなく仕組みで回るマーケ組織」を作ることが、内製化成功企業の共通点とされています。

内製化に欠かせないツール選定のポイント

コンテンツ・SEO・広告で最低限揃えたいツール群

  • CMS(WordPressなど)
    社内で簡単にページ追加・修正ができることが前提です。
  • アクセス解析・計測ツール
    GA4、Search Console、必要に応じてヒートマップツール
  • キーワード・広告管理ツール
    Googleキーワードプランナー、簡易なSEOツール
    Google広告/Meta広告の管理画面+レポートテンプレート

加えて、CRMやSFA(Salesforce、HubSpotなど)と連携できると、「Webの数字」と「商談・受注の数字」を一気通貫で追えるようになり、内製化の効果をより正確に把握できます。

コストを抑えつつ成果を出すツールの考え方

「今すぐ必要なもの」と「後からで良いもの」の線引き

今すぐ必要なのは次のとおりです。

  • CMS(編集権限)
  • GA4+Search Console
  • メイン広告媒体のアカウント
  • 社内共有用のドキュメント・タスク管理ツール

一方で、以下のようなツールは「一定以上のトラフィック・リード数が出てから」でも遅くありません。

  • 高価なMAツール
  • 高機能なSEOスイート
  • 高度なBIダッシュボード

最初から高機能ツールを入れても使いこなせず、「宝の持ち腐れ」になるケースが多いため、まずは無料〜低価格ツールで運用の型を作ることを優先した方が、結果的にROIが高くなります。

無料〜低コストで始める組み合わせ例

  • CMS:WordPress(既存サイトがあればそのまま活用)
  • 解析:GA4+Search Console(無料)
  • ヒートマップ:無料〜低価格ツール
  • ドキュメント・タスク管理:Google Workspace/Notion/Trello等
  • キーワード調査:キーワードプランナー+一部有料ツールのライトプラン

このような「ミニマム構成」でも十分にPDCAは回せます。内製化の成熟に合わせて、MA、ABテストツール、BIなどを段階的に追加していくイメージを持つと、無駄な投資を抑えつつ成長できます。

「自社でやる」と決めたあとにつまずきやすいポイント

よくある失敗パターン

  1. なんとなくコンテンツを量産してしまう
    キーワードやペルソナが定まっておらず、「とりあえずブログを更新」になってしまう。
  2. 担当者が兼任でパンクしてしまう
    本業が忙しく、マーケ施策が後回しになり、継続性が失われる。
  3. データは取っているが活かせていない
    GA4や広告レポートはあるが、誰も見ていない、見ても次のアクションにつながっていない。
  4. 内製化の範囲を広げすぎて、結局どれも中途半端になる
  5. 外部パートナーとの役割分担が曖昧で、責任の所在がぼやける

失敗を避けるための事前対策

3つだけ追うKPIを決める

例として次のような指標を挙げられます。

  • 問い合わせ数
  • メインLPのCVR
  • 広告経由CPA

最重要の3つに絞り社内で共有します。この3指標を「ダッシュボードの一番上」に置き、毎月の会議では必ずここから話し始めるルールにすると、議論がブレにくくなります。

毎月・毎四半期の「振り返りの場」を設計する

  • 月1回のマーケ定例で、
    ・先月の数字
    ・うまくいった施策/うまくいかなかった施策
    ・今月やる3つのアクション
    を必ず決めるようにします。
  • 四半期ごとに、KGI・チャネル配分を見直す時間を取り、「やめる施策」を決めることも重要です。

「やめること」を明確にしないと、担当者のタスクは増える一方になり、内製化が疲弊要因になってしまいます。成功企業ほど、「やめる・減らす」意思決定を定期的に行っています。

外部視点を適切なタイミングで取り入れる

  • 半年に1度、外部コンサルや代理店にレビューだけ依頼する
  • 新しいチャネルに挑戦するときだけ、短期で伴走支援を受ける

といった形で「第3者の目」を入れると、内側だけでは気づきづらいボトルネックを発見しやすくなります。これにより、「完全内製=外部を使わない」ではなく、「内製をベースに、外部をピンポイントで賢く使う」体制に近づけていけます。

成功企業がやっている「内製化のコツ」

小さく始めて、勝ちパターンを横展開する

1商材・1チャネル・1ペルソナからスタートする理由

すべての商材・すべてのターゲットを一度に取りに行くのではなく、「もっとも勝ちやすい組み合わせ」に集中します。

例としては次のようなイメージです。

  • 既に対面で売れている主力商材
  • もっとも成約率が高い顧客層
  • 検討段階が明確なキーワード

この組み合わせで得た成功パターン(訴求軸・コンテンツ・広告セット)を、他商材や他ペルソナに横展開していくのが効率的です。BtoBの成功事例でも、「主力サービス × 既存で一番多い業種 × 検討フェーズ後期のキーワード」に絞ってオウンドメディアをスタートし、そこでの成功体験をもとに他業種・他サービスへ広げていくパターンが多く見られます。

成功したテーマ・コンテンツの「再現方法」

  • コンテンツごとに、
    ・テーマ
    ・想定ペルソナ
    ・検索意図
    ・成果(PV、滞在時間、CV数など)
    を記録しておきます。
  • 成果が良かったものの共通点を洗い出し、「似たニーズ」「関連テーマ」のコンテンツを追加していきます。

このプロセスを繰り返すことで、「なんとなくの量産」から「再現性のある量産」に変えていけます。特にAIツールを活用すると、成功コンテンツの構成やキーワード群をもとに関連テーマの案出しやアウトライン作成を自動化できるため、内製化とAI活用は相性がよい組み合わせです。

社内にマーケティング文化を根づかせる工夫

営業・現場メンバーを巻き込んだネタ出し

  • 営業やカスタマーサクセスと月1回の「ネタ出しミーティング」を行い、
    ・最近よく聞かれる質問
    ・お客様が迷っていたポイント
    ・成功事例・失敗事例
    を出してもらいます。
  • それをもとに、Q&A記事や事例記事、ホワイトペーパーを作成すると、実務に直結したコンテンツになりやすくなります。

このように「現場を巻き込む」ことで、マーケが孤立せず、組織全体で内製化を支える体制が生まれます。製造業の事例では、営業・技術者・マーケが共同で記事を執筆し、社内コミュニケーションの活性化にもつながったケースもあります。

成果を「見える化」してモチベーションを保つ方法

  • 毎月の問い合わせ数・商談数・受注数を、簡単なグラフで社内共有する
  • 成功したコンテンツやキャンペーンを表彰したり、社内ニュースに取り上げる
  • 営業から「この資料が役立った」「この記事を見て問い合わせが来た」といった声を集め、マーケ担当にフィードバックする

成果が見えづらいと、内製化は「余計な仕事」に見えてしまいます。数字と現場の声で「事業に効いている」という実感を共有していくことが大切です。特に中小企業では「社長からのポジティブフィードバック」が担当者のモチベーションを大きく左右するため、経営層自らが定例会や社内報などで内製化の成果を発信することも有効です。

こんな会社は「自社でWebマーケティングを内製化」すべきか

内製化に踏み切るべきタイミングの見極め方

  • 外注費が一定規模になってきた(例:月30万〜100万以上)
    → そのうちの一部を人件費・ツール費に回した方が、長期的には得かもしれない
  • 外注に任せているが、レポートの中身がよく分からず不安
    → 自社で数字を読み解けるようにしたい
  • 営業や事業側から「もっとこういう情報を発信したい」という要望が増えている
    → コンテンツ内製のニーズが高まっている

こうした状況が揃ってきたら、「自社でWebマーケティングを内製化」するタイミングと言えます。特に、コロナ禍以降に展示会・訪問営業の比重が下がり、「Web経由の商談が売上の柱になりつつある」企業では、データを外部に握られたままにしておくリスクが大きくなっています。

事業フェーズ別(立ち上げ期/成長期/成熟期)の判断軸

  • 立ち上げ期
    まずは外部パートナー中心でスピード重視。ただしアカウントやデータは必ず自社名義にし、将来の内製化に備えます。
  • 成長期
    主力チャネル・勝ちパターンが見えてきた段階で、そのチャネルから内製化を進めます。
  • 成熟期
    内製化でコスト構造を改善しつつ、新チャネル・新市場開拓のために外部の知見も活用します。

このように、フェーズごとに「外部と内製のバランス」を調整していくことで、リスクを抑えながら内製比率を高めていくことができます。

最初の一歩として何から着手するか

まずやるべき1つの施策を決める

次のように「これだけは半年続ける」と決める1施策を選びます。

  • 「まずは自社ブログで、見込み客のよくある質問に答える記事を月4本書く」
  • 「まずは既存LPのCVR改善に集中し、広告はそのLPに一本化する」
  • 「まずはGA4とSearch Consoleを整備し、レポートフォーマットを固定する」

成功企業の多くは、「1施策×半年」のようなフォーカスを意識しており、あれもこれも同時に始めないことが内製化定着のポイントになっています。

今日から始められる準備チェックリスト

  • 自社のWebマーケティングの目的(売上/リード/採用など)を一文で書ける
  • 現状のアクセス数・問い合わせ数・主要チャネルを把握している
  • メインの広告アカウント・解析ツールが自社名義で管理されている
  • マーケ担当として、誰がどのくらいの時間を使うか決まっている
  • 半年分の予算(人件費+ツール費)を確保している
  • 小さく始める「1チャネル」「1施策」を決めている

これらが満たせていれば、「自社でWebマーケティングを内製化」するための土台は整っています。あとは、外部の力も適度に借りながら、6〜12ヶ月のロードマップで一歩ずつ体制を育てていくことが、中小企業・BtoB企業にとって現実的かつ再現性の高いアプローチです。

Webマーケティングの内製化は、「全部を自前でこなすこと」ではなく、自社主導で方針を決め、日々の改善を回し続けられる状態をつくる取り組みです。外注費の圧縮やノウハウ蓄積、データ主権の確保といったメリットがある一方で、人材育成やトレンドキャッチアップの負荷も避けられません。事業規模や商材単価、営業体制、経営層のスタンスを踏まえ、「本当に内製が向くのか」を見極めたうえで、すべてを一気に変えようとせず、1チャネル・1施策から着手することが現実的です。アカウントを自社名義に切り替え、目的・期間・予算を明文化し、外部パートナーからやり方を学びながら、6〜12ヶ月かけて運用フローとマニュアルを整える。この段階的な進め方であれば、中小企業やBtoB企業でも、属人化を抑えた内製体制をじわじわと根づかせていけます。

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この記事を書いた人

Webマーケティング業界10年以上のフリーランス。
「低コストでも、効果のあるWebマーケティング」をご提供することをモットーに、多岐にわたる業種の会社さまのご支援を行っております。
※2025年1月に法人化しました。