「Web広告を自社で運用できるか」。AIの自動化が進み、管理画面も直感的になった今、「うちでもなんとかなるのでは」と考える企業が増えています。一方で、社内リソースや知識が追いつかず、費用だけが膨らむケースも少なくありません。本記事では、自社運用に向いているかどうかを見極める具体的な視点を整理し、判断の材料をご提供します。
Web広告を自社で運用できるかどうかを見極める視点
この記事でわかること
- 「Web広告を自社で運用できるか」を判断するためのチェックポイント
- 自社運用と代理店運用の向き・不向き
- 失敗しないための段階的な進め方
そもそも「Web広告を自社で運用する」とは何か
自社運用の定義と、よくある誤解
自社運用とは、広告代理店に任せず、社内でプラットフォーム(Google、Meta、LINEなど)を直接操作し、配信・計測・最適化まで行うことを指します。
よくある誤解として、「ボタンを押すだけで運用できる」「ツールが自動最適化してくれるから、ほとんど何もしなくてよい」といった考え方があります。しかし、実際には以下のような業務が必要です。
- 計測設計(どの行動をコンバージョンとみなすかの設定、タグ設計など)
- 入札戦略(手動入札と自動入札の使い分け、目標CPA/ROASの設定)
- クリエイティブの改善(訴求メッセージやデザインのA/Bテスト)
実務としては、Google広告やMeta広告マネージャーにログインし、ターゲット設定、キーワードやオーディエンスの選定、予算・入札単価の設計、クリエイティブのテスト、成果指標(CTR・CVR・CPA・ROASなど)のモニタリングと改善を、社内で継続的に行っていくことになります。
P-MAXのようなAI自動最適化機能を活用する場合でも、「どんな目的で・どの指標を追うか」「どのページや行動をコンバージョンと定義するか」といった戦略設計や、訴求メッセージ・クリエイティブの改善は人が担う必要があります。
自社運用で扱う主な広告の種類
リスティング広告
検索キーワードに連動して表示される広告です。購買意欲や検討意欲の高いユーザーを狙える一方で、キーワード設計、除外キーワードの設定、入札戦略の理解が必須です。
ディスプレイ広告
バナーやテキスト広告を、Webサイトやアプリ上に配信する形式です。認知拡大や興味喚起に向いていますが、配信面やターゲティングの設計、クリエイティブ最適化の難易度は比較的高めです。
SNS広告
Instagram、Facebook、X(旧Twitter)、LINE、TikTokなどのSNS上に配信する広告です。媒体ごとにユーザー層や配信フォーマット、アルゴリズムが大きく異なるため、それぞれのプラットフォームの特性を理解したうえで運用することが重要です。
アフィリエイト広告
ASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダー)を介して、成果報酬型で外部メディアに掲載してもらう広告です。報酬設計、成果地点の定義、アフィリエイターなどパートナーの管理、不正対策など、運用工数は多くなりやすい傾向があります。
P-MAXなどAI自動化型広告
GoogleのPerformance Maxのように、検索・ディスプレイ・YouTube・Discoverなど複数の配信面を横断して、AIが自動で最適化を行うタイプです。入札や配信面の細かな調整を任せることで工数を削減できる一方、配信のコントロールがしづらく、ブランドセーフティやクリエイティブ戦略の設計がより重要になります。
自社運用が増えている背景
近年、代理店手数料の削減志向、デジタルシフト、AIによる自動最適化の普及などにより、自社運用のハードルは下がってきています。しかし、「完全自動で任せておけば成果が出る」という状況にはまだなっていません。
従来はWeb広告運用を代理店に「丸投げ」するケースが主流でしたが、次のような要因から、自社内にノウハウを蓄積しようとする動きが強まっています。
- 月予算の15〜20%前後かかる運用手数料への負担感
- GA4などの無料〜低コストな計測・分析ツールの普及
- コロナ禍以降のオンラインシフトにともなう、社内でのデジタルスキル習得ニーズの高まり
- DX推進やプライバシー対応の観点から、1stパーティデータを自社で保有・活用したいという流れ
一方で、プラットフォーム仕様の頻繁な変更やCookieの廃止など、環境変化のスピードも増しています。そのため、「自社だけで全部を対応しきれるか」を冷静に見極めることが重要です。
「自社で運用できるか」を見極める5つの視点
視点1:社内リソース(人・時間)は足りるか
自社運用では、1人あたり週20時間程度の専任工数があることが望ましいです。片手間での運用は、設定ミスや分析不足につながりやすく、成果が出にくくなります。
特に、複数媒体(例:Google+Meta+LINEなど)を並行して運用する場合には、次のようなタスクが日常的に発生します。
- 日次:レポート確認、数値異常のアラートチェック
- 週次:入札・予算調整、クリエイティブの差し替えやテスト設計
- 月次:振り返り(レポーティング)と改善施策の立案
これらが積み重なると、実質的にはフルタイムに近い工数が必要になるケースもあります。
さらに、広告運用そのものだけでなく、ランディングページの改善、タグ設定、社内の関係部署との調整といった業務も発生します。「マーケティング担当が他業務と兼務しながら、少しだけ触る」程度では、データが蓄積されても十分に活用できず、学習も進みにくくなりがちです。
視点2:最低限の知識・スキルを習得できるか
自社運用で最低限必要となるスキルには、次のようなものがあります。
- ターゲティング・キーワード選定
- クリエイティブの改善(訴求やデザインの見直し)
- CTR/CVR/CPA/ROASなど基本指標の理解と活用
各プラットフォームごとに学習コストがあり、特にディスプレイ広告やSNS広告は、媒体ごとの「運用感覚」をつかむ必要があります。
もう一歩踏み込んで、次のような知識や経験があると、失敗リスクを大きく下げることができます。
- 計測まわり
- GA4や広告コンバージョンタグの設定
- Googleタグマネージャー(GTM)によるタグ管理
- UTMパラメータ設計
- 入札戦略
- 手動入札と自動入札(目標CPA/目標ROAS)の使い分け
- クリエイティブ
- バナー・動画・テキストのA/Bテスト設計
- 勝ちパターンの抽出・横展開の方法
- プラットフォーム仕様
- GoogleとYahoo、InstagramとTikTokなど、「同じ検索広告・同じSNSでも仕様が異なる」という前提での設計力
これらは、Google Skillshopなどの公式トレーニングや、オンライン講座を活用することで体系的に学ぶことが可能です。ただし、「初期1〜3ヶ月は勉強と試行錯誤に時間を投下する」前提で計画しておくことが重要です。
視点3:予算規模と「失敗許容量」はどれくらいか
自社運用で成果を出すためには、テスト期間にある程度の予算を投下する必要があります。一般的には、全体予算の10〜20%程度を「テスト・学習用」として見込んでおくとよいとされています。
AI入札やP-MAXといった自動最適化機能を活かすには、月あたり一定数のコンバージョンデータ(目安として数十〜百件程度)が必要とされます。コンバージョンが少なすぎると、次のような状態に陥りやすくなります。
- アルゴリズムが学習しきれず、CPAが高止まりする
- 「どのターゲット・どの訴求が効いているか」が見えない
また、「どこまでなら失敗してもよいか」という許容範囲を、あらかじめ経営側と共有しておくことも重要です。
例として、以下のようなラインを事前に決めておくと、途中で不安になって広告を止めてしまい、せっかくの学習データが途切れてしまうといった事態を防ぎやすくなります。
- 初期3ヶ月は、月50万円のうち最大10〜15万円を「学習コスト」として割り切る
視点4:ビジネスモデル・業種との相性
自社運用に比較的向いているのは、EC・D2C、SaaS、リード獲得型の中小〜中堅事業などです。これらのビジネスには次のような特徴があります。
- 「クリック → LP → コンバージョン」の流れがシンプルで、成果地点が明確
- オンライン上で売上・リード数などを定量的に追いやすい
- 価格・オファー・クリエイティブなどを柔軟に変更でき、短いサイクルでテストと改善を回せる
一方で、次のようなケースでは、代理店や専門組織の支援を受けたほうが安全な場合が多くなります。
- 医療・金融など、表現規制が厳しく、広告審査や表現ルールへの対応に専門知識が必要な業種
- ブランド毀損リスクが高く、掲載面や文言を細かくコントロールしたい案件
- マス広告と一体でキャンペーンを設計する必要があり、メディアプランニングの高度なノウハウが問われるケース
このような場合は、完全な自社運用ではなく、専門代理店と役割分担を行う「ハイブリッド運用」を検討することをおすすめします。
視点5:社内に「改善サイクル」を回す文化があるか
自社運用で成果を出すためには、PDCAを自走できるかどうか、数字をオープンにし、改善案を迅速に実行できる組織かどうかが重要です。
たとえば、次のような文化・体制があるかを確認するとよいでしょう。
- 指標(CV数・CPA・ROASなど)をチームで共有し、週次・月次で振り返っている
- 「なぜこの結果になったか」を言語化し、仮説をもとに施策を打ち直している
- LP改善やクリエイティブ制作を、スピーディーに実行できる社内フローがある
- 失敗した施策も学びとして共有し、責任追及よりも改善にフォーカスする
こうした「数字に基づいて打ち手を変えていく」文化があるほど、自社運用で得られるデータをビジネス全体の改善に活かしやすくなります。
まとめ:自社運用に踏み切る前に確認したいポイント
本記事では、自社でWeb広告を運用するかどうかを判断するために、
- 人と時間の余裕(社内リソース)
- 最低限の知識習得へのコミット
- 予算規模と失敗許容量
- ビジネスモデル・業種との相性
- 改善サイクルを回す文化
という5つの視点を整理してきました。
AIによる自動化が進んだとはいえ、「設定して放置」で成果が安定する状況にはまだ至っていません。どの指標を追うのか、どこをコンバージョンとみなすのか、どの訴求を試していくのかといった設計や意思決定は、最終的に社内で引き受ける必要があります。
もし現時点で社内リソースやスキルに不安がある場合は、いきなりすべてを自社運用に切り替えるのではなく、次のような段階的な進め方を検討してみてください。
- まずは1媒体・1キャンペーンから小さく始める
- 計測やタグ設定など基盤づくりだけ外部に依頼する
- 代理店に任せつつ、一部の領域(例:レポートの読み解きやクリエイティブ検証など)だけを社内で担当し、徐々に範囲を広げる
自社運用か、代理店運用か、あるいはハイブリッドか。自社の状況に合わせて最適なバランスを見極めながら、着実にノウハウと成果を積み上げていくことが重要です。
