失敗しにくいマーケティング予算の決め方 守りたい三つのルール
小さな会社こそマーケティング予算が重要な理由
検索窓に「小さな会社 マーケ予算 決め方」と打ち込みながら、画面の前で手が止まっていないでしょうか。
「今の売上に対して、広告にいくら回すのが妥当なのか」「このまま感覚で決めていて大丈夫なのか」とモヤモヤしつつも、明確な基準がなく、なんとなく毎月の予算を決めている。そんな声を、経営者の方からよくうかがいます。
人もお金も時間も限られる小さな会社ほど、「集客にどれだけお金を振り向けるか」の判断が、数ヶ月後の売上や資金繰りを大きく左右します。それなのに、売上が落ちた瞬間に真っ先に削られがちなのも、広告費や販促費です。
この記事では、勘ではなく数字を使って、再現性のあるマーケティング予算を組み立てる考え方をまとめました。売上目標や粗利からの逆算、チャネルの絞り方、テストの考え方など、「小さな会社が守っておきたい三つのルール」を軸に、明日からそのまま使える視点をお伝えしていきます。
「小さな会社 マーケ予算 決め方」と検索する方が増えている背景には、次のような現実があります。
- 人もお金も時間も限られている
- 新規集客を止めると、売上がすぐに落ちる
- デジタル広告やSNSなど選択肢が多すぎて、どこにいくら使えばいいか分からない
特に小さな会社では、「その月にいくら集客できるか」が、翌月以降の売上と資金繰りを大きく左右します。
マーケティング予算は「命綱」であり、「なんとなく」で決めてはいけない数字です。
よくある失敗パターンは、次の4つです。
- なんとなくの感覚で「このくらいかな」と決める
- 売上が落ちてから、真っ先に広告費を削る
- 代理店や媒体側に提案された金額をそのまま採用する
- 一度決めた予算を、数字を見ずに続けてしまう
この結果、
- 集客の波が激しくなり、資金繰りが不安定になる
- 広告をやめた数ヶ月後に、予約や問い合わせが一気に減る
- 「広告なんてやっても意味がない」と結論づけてしまう
といった事態になりがちです。
本来、マーケティング予算は「売上目標・利益率・キャッシュフロー」とセットで設計し、
「この予算を投下すると、いつ・どれくらい売上と利益が戻ってくるか」を、ざっくりでも数字でイメージしておく必要があります。
デジタル広告であれば、クリック数・問い合わせ数・成約数まで追えるため、「なんとなく」ではなく、毎月の数字を見ながら微調整する前提で決めることが重要です。
この記事では、小さな会社でも今日から実践できる「失敗しにくいマーケティング予算の決め方」を、次の三つのルールに分けてお伝えします。
- 売上と利益から逆算して決める
- チャネルを増やしすぎない
- 必ず“テスト枠”を残す
まず押さえたい「マーケティング予算の基本の考え方」
マーケティング予算は「投資」であって「経費」ではない
多くの小さな会社では、マーケティング費を次のように「経費」と同列で考えています。
- 家賃
- 光熱費
- 通信費
- 交通費
- 広告費(削りやすい経費)
この発想だと、「今月は厳しいから広告は減らそう」となりがちです。
しかし、本来のマーケティング予算は「投資」です。
経費は支払った瞬間に消えますが、投資は将来の売上と利益を生み出すためのお金です。
そのため、発想を次のように変えることが重要です。
- 「いくら使うか」ではなく「いくらで1件取れるか(CPA)」を基準にする
1件の新規顧客を獲得するのに「いくらまでかけていいのか」が分かれば、
「何件ほしいか」×「1件あたりの許容コスト」で、自然と予算が決まっていきます。
ここでよく使われる指標がROAS(広告費回収率)やROI(投資利益率)です。
- ROAS = 広告経由の売上 ÷ 広告費
- ROI =(広告経由の利益 − 広告費)÷ 広告費
たとえば「ROAS300%(1万円使って3万円売上)」を1つの基準にしておけば、
- 3万円売れるなら1万円までは出してよい
- 利益率が高いなら、もう少し踏み込める
といった判断がしやすくなります。
小さな会社は売上の何%をマーケティング予算にすべきか
一般的には「売上の3〜5%を広告費に回すとよい」と言われます。これはさまざまな業種・規模の企業の平均値から来ており、目安としては以下のイメージです。
- 売上の3%前後:現状維持〜微増
- 売上の5%前後:堅実な成長ライン
- 売上の8〜10%:攻めの成長投資
ただし、小さな会社では「今どのフェーズにいるか」で適切な割合が変わります。
立ち上げ期(創業〜2年目くらい)
- 認知ゼロからスタートするため、「売上の5〜10%」程度を想定します。
- 場合によっては、売上より先に広告投資が必要になることもあります。
(例:初月は売上50万円、広告費15万円=30%など、期間限定の攻め) - 「まず知ってもらう」「最初の口コミを作る」ことが目的なので、短期の利益率よりも、中長期のLTV(顧客生涯価値)を見ながら判断します。
安定期(固定客がついてきた段階)
- 既存客・紹介である程度回るなら、「売上の3〜5%」が目安です。
- 既存客のリピート施策(DM・LINEなど)はコストが低く、広告費を抑えやすくなります。
- このフェーズでは「新規100%依存」から「既存70〜80%+新規20〜30%」へのシフトを目指し、ニュースレター・イベント・LINE配信など、既存向けのコミュニケーション施策もマーケティング予算の一部として考えます。
拡大期(2店舗目・新サービス展開など)
- 新規の認知獲得が必要なため、「売上の5〜8%」を目標に検討します。
- 期間を区切って集中的に投資し、その後は安定期ラインへ戻すイメージです。
- このとき、既存店(既存事業)の広告費まで一気に増やすとキャッシュが詰まりやすくなります。
「新拠点・新サービスにいくらを、どの期間だけ上乗せするか」を数字で切り分けておくと安全です。
この「売上の何%か」はあくまで出発点であり、実際には次章の「売上と利益からの逆算」と組み合わせて、具体的な金額に落としていきます。
守りたい三つのルール① 売上と利益から逆算して決める
目標から逆算するシンプルなステップ
マーケティング予算を感覚ではなく「数字」で決める基本ステップは、次の3つです。
ステップ1:月間売上目標を決める
まず、「来月〜半年後に、月いくら売りたいか」を決めます。
- 例:月間売上目標 100万円
現状が80万円で半年後に100万円を目指すのか、50万円から100万円にしたいのかで、必要な投資額は変わります。
ステップ2:平均客単価と粗利率を出す
次に、顧客一人あたりの「売上」と「粗利」を把握します。
- 平均客単価:1回あたりいくら使ってもらっているか
- 粗利率:売上から仕入・外注費などを引いた残りの割合
たとえば、
- 平均客単価:1万円
- 粗利率:30%(粗利3,000円)
とします。
ステップ3:必要な新規客数(CV数)を出す
売上目標に対して、何人の新規顧客が必要かを計算します。
- 目標売上:100万円
- 平均客単価:1万円
→ 月間で必要な延べ来店回数は 100万円 ÷ 1万円 = 100件
このうち、既存客でどれくらい埋まりそうかを考えます。
- 既存客のリピート・紹介で 70件は見込める
→ 新規で必要なのは 30件
つまり、「新規30件」が当月のマーケティング目標(CV数)になります。
ここまで決まると、残りは「1件あたりいくらまでかけられるか」を決めるだけです。この考え方は、店舗・EC・BtoBサービスなど、どのビジネスにも当てはめられます。
目標CPA(1件あたりの上限コスト)の決め方
新規1件を獲得するのに、いくらまでなら使ってよいのか。
この上限ラインが、目標CPA(Cost Per Acquisition)です。
先ほどの例で考えます。
- 平均客単価:1万円
- 粗利:3,000円(粗利率30%)
まず、1回限りの利用で終わっても赤字にならないラインを考えます。
- 粗利3,000円 > 広告費(CPA)であれば、赤字にはならない
とはいえ、粗利をすべて広告費に使ってしまうと、人件費や家賃などを賄えません。
そのため、安全ラインとしては、
- 目標CPA = 粗利の50〜70%以内に抑える
くらいが現実的です。
実例:客単価1万円・利益3,000円の場合
- 粗利:3,000円
- 粗利の70%:2,100円
- 粗利の50%:1,500円
→ 目標CPAを「1,500〜2,000円」程度に設定するのが一つの目安になります。
さらに、リピート率が高いビジネス(治療院の回数券、サブスク、顧問契約など)の場合は、
- 初回来店では赤字でも、2回目以降で十分回収できる
という前提で、CPAを粗利を超えて設定することもあり得ます。この場合は「LTV(顧客生涯価値)」を基準に考えます。
LTVベースで考えるときは、
- 平均継続回数(または継続月数)
- 継続期間中の平均単価
- その合計売上に対する粗利
をざっくりでも出し、「LTV粗利の何%までなら新規獲得コストとして許容するか」を決めておくとブレにくくなります。
小さな会社の具体例
実店舗(美容室・治療院など)の例
- 月間売上目標:120万円
- 平均客単価:8,000円
- 粗利率:40%(粗利3,200円)
- 既存客・紹介で見込める来店数:月100件
-
必要な総来店回数
120万円 ÷ 8,000円 = 150件 -
新規で必要な件数
150件 − 100件(既存)= 50件 -
目標CPA
粗利3,200円 × 60% = 1,920円
→ 目標CPA:1,900円前後 -
月間マーケティング予算の目安
50件 × 1,900円 = 95,000円
この場合、「月10万円前後」が理屈の通ったマーケティング予算の目安になります。
さらに、回数券・指名予約・物販などの追加売上も加味すると、実際にかけられるCPAはもう少し高くなるケースが多いです。
「新規で来た人のうち何%が回数券を買うか・リピートするか」といった実績データを見ながら、CPAの許容ラインを定期的に見直していくことをおすすめします。
BtoBサービス(コンサル・士業など)の例
- 月間売上目標:200万円
- 1件あたり契約単価:20万円
- 粗利率:60%(粗利12万円)
- 1件あたりの平均契約継続期間:12ヶ月
→ LTV:20万円 × 12ヶ月 = 240万円(粗利144万円)
-
月間で必要な契約数
200万円 ÷ 20万円 = 10件 -
初月の粗利を基準にした安全CPA
初月粗利12万円 × 30〜50% = 3.6万〜6万円 -
LTVを考慮した攻めのCPA
LTV粗利144万円のうち10%を投資 → 14.4万円
→ 初月黒字重視ならCPA上限は5万円前後、成長投資フェーズならCPA上限10万円前後といった具合に、経営方針に合わせてラインを決められます。
BtoBの場合は、
- 問い合わせ(リード)1件あたりの単価(CPL)
- リードから成約までの率(成約率)
もセットで見ると、より精度の高い設計ができます。
たとえば、CPL1万円・成約率20%なら、CPAは5万円(=1万円 ÷ 0.2)という計算です。
守りたい三つのルール② チャネルを増やしすぎない
小さな会社にありがちな「予算の薄まり問題」
よくあるのが、次のように少額をあれこれに分散してしまうパターンです。
- Google広告:月1万円
- Instagram広告:月1万円
- Facebook広告:月1万円
- チラシ:月1万円
一見、リスク分散に見えますが、実際には次のような問題が起きやすくなります。
- 1チャネルあたりの予算が少なすぎて、十分なデータが集まらない
- どれが効いているのか検証する前に、予算が尽きてしまう
- どこも中途半端で「育つチャネル」が生まれない
小さな会社にとっては、
- まず1〜2チャネルに集中して「勝ちパターン」を作る
- その後、利益が出た分で徐々にチャネルを拡張する
という順番が、もっとも失敗しにくい進め方です。
実際、月3〜10万円程度でも、検索連動型広告など「今すぐ客」に近い層を狙えるチャネルに集中すれば、少ないインプレッション・クリックでもCV(問い合わせ・予約)を発生させることは十分可能です。
逆に、初期からディスプレイ広告や動画広告など「認知寄りのチャネル」に薄く広く出してしまうと、回収が間に合わず「広告は合わなかった」と感じやすくなります。
少額予算で相性がよいチャネルの選び方
今すぐ客を狙うなら:リスティング広告(検索広告)
- 「地域名+業種」「サービス名+料金」などで検索している人は、今すぐ客の可能性が高いです。
- キーワードを絞れば、少額でも効率的に集客できます。
- 月3〜5万円でも、設計次第で新規予約を生み出せます。
リスティング広告では、「主要キーワード」と「テストキーワード」に分けて配分するのがコツです。
たとえば月5万円なら、
- 3.5〜4万円:指名に近い、成約しやすいキーワード(地域名+業種など)
- 1〜1.5万円:悩み系・原因系など、将来客寄りのキーワード
という形で、「本命+テスト」の構造を持たせると、少額でもPDCAを回しやすくなります。
将来客を育てるなら:SEO・オウンドメディア・SNS
- 「腰痛 原因」「確定申告 やり方」のように、すぐには買わないが情報収集している層に対して、記事・ブログ・SNS発信で信頼を積み上げていきます。
- 成果が出るまで時間はかかりますが、軌道に乗れば「半自動の集客装置」になります。
ここに投資するお金は、「広告費」というより「コンテンツ制作費」「自社資産づくり」と考えるとよいです。
- 月数本の記事制作費
- 簡易な動画制作費
などを、毎月一定額ずつ積み上げるイメージです。広告費がゼロになっても、SEO・オウンドメディアからの流入が残る状態を目指します。
オフライン(チラシ・ポスティング等)との組み合わせ方
- 地域密着の実店舗は、オンラインとオフラインを組み合わせると効果的です。
- 例:ポスティングのチラシから「LINE登録」でクーポン → その後、LINEで継続フォロー
チラシ単体よりも「オンラインへの導線」を持たせることで、LTVを伸ばしやすくなります。
オフライン施策も、
- いつ・どこに・何枚配ったか
- そこから何件の登録/来店があったか
を記録しておけば、オンライン広告同様に“見える化”できます。ここまでできると、オンラインとオフラインを横並びで比較し、「どちらにいくら配分するか」を判断しやすくなります。
月3万円/10万円/30万円の予算配分例
月3万円のケース
- 集中すべきチャネル:1チャネル
例:
- 検索広告 2万円 + チラシ印刷・配布 1万円
- または、検索広告 2万円 + SNS広告 1万円
無料〜低コスト施策として、
- Googleビジネスプロフィール整備
- SNS(Instagram・Xなど)の定期投稿
- 既存客向けLINE・メルマガ配信
を「時間投資」で行うイメージです。
この規模では「1ヶ月やって終わり」ではなく、最低でも3ヶ月連続で同じ設計を回してみることが重要です。
1ヶ月目はテスト、2ヶ月目で微調整、3ヶ月目で「続ける/やめる」を判断するくらいの感覚で取り組むと、少額でも経験値が残ります。
月10万円のケース
- 集中すべきチャネル:1〜2チャネル
例:
- 検索広告 5万円(本命)
- SNS広告 2万円(テスト)
- チラシ・ポスティング 2万円(地域向け)
- 効果測定・改善のためのツール/外注 1万円
無料施策として、
- 月数本のブログ記事やコラム
- 既存客フォロー(LINE/メルマガ)
を組み合わせ、「今すぐ客+将来客」の両方にアプローチします。
この予算感になると、「どこまで内製して、どこから外注するか」も検討しやすくなります。
- 戦略や設計だけスポットでプロに入ってもらう
- 広告運用は最初の3ヶ月だけ代行してもらい、その後は引き継ぐ
といったハイブリッドなやり方は、投資対効果が高い選択肢です。
月30万円のケース
- 集中すべきチャネル:2チャネル+テスト1チャネル
例:
- 検索広告 12万円
- SNS広告 8万円
- コンテンツ制作(ブログ・動画等) 5万円
- チラシ・DMなどオフライン 3万円
- 効果測定・改善支援(ツールや外注) 2万円
この規模になると、
- 新規獲得用チャネルと、認知・ブランディング用チャネルを分ける
- SEOやオウンドメディアに継続投資して、長期的な集客基盤を作る
といった発想が持てるようになります。
さらに、マーケティング予算を「戦略立案」「制作」「媒体費」「分析」に分け、それぞれに最低限の枠を確保しておくと、組織として“回せる仕組み”になっていきます。
少なくとも月30万円規模になったら、「効果測定・改善」のゼロ化は避け、レポート・分析・打ち手の検討に毎月1〜2万円分は必ず時間とお金を割くことをおすすめします。
守りたい三つのルール③ 必ず“テスト枠”を残す
なぜ「全部本番」で使い切ると失敗しやすいのか
マーケティングの世界で「100%当たる施策」は存在しません。
にもかかわらず、予算のすべてを一つのやり方に賭けてしまうと、
- うまくいかなかったときに、次の一手が打てない
- どこが原因だったのか、数字で検証できない
という状態になります。
広告の成果は、
- どの媒体がよかったのか
- どのキーワードが効いたのか
- どの画像・文章が反応を取れたのか
といった細かい要素の組み合わせで決まります。テストをしてデータを貯めないと、改善のしようがありません。
また、小さな会社は「絶対に外したくない」と考えるあまり、
- 毎回同じ訴求だけを出し続ける
- 媒体側の自動最適化に任せきりにする
という状態になりがちですが、これでは“今より良くなる余地”を自ら潰してしまいます。
「常に予算の一部は、失敗してもいい実験枠」と割り切ることが、長期的な勝ちパターンづくりには不可欠です。
予算の中にテスト枠を組み込むコツ
目安として、最初は
- 本命:テスト = 7:3
くらいのイメージで予算を割り振ることをおすすめします。
本命枠(70%)
- いまのところ「一番見込みが高い」と思うチャネル・キーワード・ターゲットに投下します。
- 例:地域名+業種の検索広告、既存顧客に近い層へのSNS広告など。
テスト枠(30%)
- キーワードのバリエーション(例:「腰痛 治療」→「腰痛 ストレッチ」「腰痛 原因」など)
- クリエイティブの違い(画像・キャッチコピー・料金表記など)
- ターゲティングの違い(年齢・エリア・興味関心など)
を意識的に変えて配分します。
「テスト=新しい媒体に手を出すこと」と考えがちですが、同じ媒体の中で“キーワード・訴求・クリエイティブ・オファー”を変えるだけでも、立派なテストです。
媒体を増やさずにテストの幅を広げるほうが、運用負荷も低く、小さな会社には向いています。
小さく回すPDCAの具体例
月10万円のうち3万円で試す内容サンプル
- 検索広告 本命キーワード:7万円
- 「地域名+業種」「地域名+サービス名」など
- テストキーワード:1.5万円
- 「症状名+原因」「悩み+解決」系のキーワード
- クリエイティブテスト:1.5万円
- LP(着地ページ)の違い
- キャッチコピーのA/Bテスト
これを「2〜3ヶ月単位」で回していきます。
2〜3ヶ月単位で判断するための数字の見方
- クリック単価(CPC):高すぎないか
- コンバージョン率(CVR):何%で問い合わせ・予約につながっているか
- CPA:目標CPA内に収まっているか
たとえば、
- Aキーワード:CPA 1,500円
- Bキーワード:CPA 3,000円
であれば、Aに予算を寄せて、Bは縮小または中止する判断ができます。
小さな会社の場合、「毎週細かく最適化する」よりも、
- 月1回〜四半期ごとにまとめて結果を振り返る
- そこから次の3ヶ月の仮説を決めて打ち手を変える
くらいのリズムのほうが現実的です。このペースで回せれば、1年で4回は改善サイクルを回せることになり、感覚ではなく数字に基づいた“自社の勝ちパターン”が少しずつ見えてきます。
予算を「配分」まで落とし込む考え方
マーケティング予算は4つの箱に分けて考える
マーケティング予算は、次の4つに分けて考えると整理しやすくなります。
- 戦略立案
- クリエイティブ制作(LP・バナー・動画・チラシなど)
- 広告出稿(媒体費)
- 効果測定・改善(ツール・分析・コンサル等)
小さな会社向けのシンプルな黄金比の一例は、次のとおりです。
| 項目 | 目安比率 |
|---|---|
| 戦略立案 | 20% |
| クリエイティブ制作 | 25% |
| 広告出稿 | 45% |
| 効果測定・改善 | 10% |
一般的な調査では、「戦略25%・制作30%・媒体35%・効果測定10%」といった配分が、高い成果につながりやすいというデータもあります。
小さな会社の場合は、戦略や制作の一部を内製することで割合は変動しますが、「広告出稿だけでなく、設計と改善にもきちんと予算を割く」という発想は共通です。
例:月10万円の予算なら
- 戦略立案:2万円(初期は外注コンサル、以降は内製でも可)
- クリエイティブ制作:2.5万円(LP改修、バナー制作など)
- 広告出稿:4.5万円(Google広告やSNS広告)
- 効果測定・改善:1万円(ツール利用、簡単なレポート作成など)
「全部広告費」にしてしまうよりも、戦略設計とクリエイティブ、分析にある程度投資した方が、トータルの費用対効果は上がりやすくなります。
内製と外注、どこにお金をかけるべきか
自社でやるとコスパがよい領域
- 顧客理解(ヒアリング、アンケート、よくある質問の整理)
- SNSの発信(オーナー・スタッフの人柄が伝わる投稿)
- 既存顧客とのコミュニケーション(LINE・メール・電話)
こうした「自社にしか分からない部分」は、内製のほうが圧倒的に強く、コストパフォーマンスも高い領域です。
専門家に任せたほうが結果が出やすい領域
- 広告アカウントの設計・運用(Google広告・Meta広告など)
- LPやバナーの設計(コンバージョン重視の構成)
- アナリティクスやタグの設定・分析
ここは、最初から無理に自社で完璧を目指すより、
- 最低限の仕組みづくりをプロにお願いし、
- その後の運用や改善を徐々に内製化する
という流れが、コスト面でも成果面でもバランスがよくなります。
また、年間のマーケティング予算が数千万円未満の企業では、「戦略〜運用〜分析」を一気通貫で見てくれる外部パートナーを使ったほうが、点ではなく“線”で最適化しやすいというデータもあります。
小さな会社ほど「全部一人で抱え込む」のではなく、
- 最初の3〜6ヶ月だけ外部に伴走してもらう
- うまくいった型を社内マニュアル化して引き継ぐ
といった形で、外注と内製の良いところ取りをしていくのが現実的です。
「うちはいくらにすればいい?」を5分でざっくり決めるワーク
ステップ形式のかんたんシート
紙でもExcelでもかまいませんので、次の項目を埋めてみてください。
1)売上目標と粗利の入力
- 月間売上目標:____円
- 平均客単価:____円
- 粗利率:____%(分からなければ「売上 − 変動費」で概算)
→ 1件あたり粗利 = 平均客単価 × 粗利率(%)
2)必要な新規客数と目標CPAの算出
- 月間の総来店・契約数 = 売上目標 ÷ 平均客単価
- 既存客・紹介などで見込める件数:____件
- 必要な新規客数(CV数)= 4 − 5
- 目標CPA = 1件あたり粗利 ×(0.5〜0.7)
(成長投資フェーズでLTVが高い業種なら0.8〜1.0も検討)
3)月間マーケティング予算の下限/上限を決める
- 月間マーケティング予算(下限)= 必要な新規客数 × 目標CPA × 0.8
- 月間マーケティング予算(上限)= 必要な新規客数 × 目標CPA × 1.2
この「下限〜上限」のレンジの中から、
- キャッシュフロー的に無理のないライン
- 成長スピードとして許容できるライン
を選ぶことで、「自社の現実に合った」予算が見えてきます。
ここまで決めたうえで、
- 売上に対する広告費比率(%)
- 想定ROAS・ROI
もざっくり書き添えておくと、「経営数字との一体感」がぐっと増します。
自社の現状を踏まえたチェックポイント
- 既存顧客比率はどのくらいか
- 売上の7〜8割が既存顧客なら、新規獲得予算を抑えつつ、既存顧客向け施策(アップセル・クロスセル)に比重を置いてもよいです。
- 紹介の多さ
- 紹介経由が多いほど、「紹介を促す仕組み」(紹介カード、紹介特典など)に投資する価値が高まります。
- キャッシュフロー状況(どこまで攻められるか)
- 広告投資の回収タイミング(例:契約から入金まで2ヶ月かかる)を踏まえて、「何ヶ月分なら先に広告費を出せるか」を確認します。
- 内製リソースの有無
- 社内に「広告管理を週1〜2時間は見られる人」がいるかどうかで、外注比率やツールへの投資金額も変わります。人が足りない場合は、無理にチャネルを増やさず、少数精鋭の運用に絞る方が安全です。
小さな会社がやりがちなNGな予算の決め方
よくある「勘とノリ」の4パターン
- 余ったお金をなんとなく使う
- 「今月ちょっと利益が出たし、10万円だけ広告やってみようか」という突発型。
- 他社の事例だけを真似する
- 「あの会社はInstagramでうまくいったらしいから、うちも全部インスタに振ろう」といった横並び思考。
- 一度決めた予算を見直さない
- 1年前に決めた金額を、環境変化や数字に関係なく惰性で続けてしまう。
- 売上が下がったらまず広告を切る
- 一番守るべき「未来の売上への投資」を真っ先に削ってしまう。
その結果どうなるか(具体的な失敗ストーリー)
- 余ったお金をなんとなく使う → 効果が見えないまま終わり、「広告は無駄」という印象だけが残る
- 他社の事例だけを真似する → 自社の客層と合わず、問い合わせゼロで終了
- 予算を見直さない → 効果の薄いチャネルにお金を垂れ流し続ける
- 売上が下がって広告を切る → 2〜3ヶ月後に問い合わせが激減し、資金繰りが一気に悪化
結果として、
- 「どうせやっても同じ」とマーケティング自体を諦めてしまう
- 社内でマーケティングへの理解や協力が得られなくなる
といった悪循環に陥ってしまいます。
一方、うまくいっている小さな会社ほど、
- 予算の決め方に「自社なりのルール」がある
- 毎月〜四半期ごとに、小さくても数字を見ている
- うまくいった施策は“型”として社内に残している
という共通点があります。金額の多寡よりも、「決め方と見直し方が一貫しているか」が、長期的な成果を分けるポイントです。
補助金・助成金でマーケティング予算を安全に増やす方法
小さな会社でも使いやすい代表的な制度
代表的なものとして、「小規模事業者持続化補助金」などがあります。これらの制度では、
- ホームページ制作・リニューアル
- チラシ・ポスター・DMの制作・配布
- 広告出稿(オンライン・オフライン)
- ECサイト構築、動画制作 など
にかかる費用の一部を補助してもらえる場合があります。
条件や上限金額は年度や公募回によって変わりますが、
- 50万円の広告・制作費に対して、半額の25万円が補助される
- 100万円の販路開拓施策に対して、2/3が補助される
といったイメージで、「自己負担を抑えてマーケティング投資ができる」制度として活用できます。
最近では、デジタルマーケティングやEC構築に特化した補助制度も増えており、
- Webサイトと広告用LPの制作
- 商品説明動画の制作
- 広告運用の外注費
など、これまで「自社の規模では無理」と思っていた取り組みにも挑戦しやすくなっています。
補助金を前提に予算設計する際の注意点
-
自己負担分を必ず先にシミュレーションする
- 補助金は「後払い」が多く、一度は全額を自社で支払う必要があります。
- 例:総額60万円の施策 → 補助金で30万円戻ってくるとしても、先に60万円を払えるかどうかを確認します。
-
「補助金がなくても続けられるライン」を基準にする
- 補助金で一気に広告を増やすと、翌年以降に「自腹では続けられない規模」になりがちです。
- あくまで「将来も自社で回せるレベル」を基準に、補助金は“後押し”として考えるのが安全です。
-
「単発花火」ではなく「仕組みづくり」に使う
- 一度きりの大型キャンペーンよりも、
- Webサイト・LP・動画など長く使える資産
- 計測ツールや広告アカウントの整備
といった“土台づくり”に投資したほうが、補助金が切れた後のリターンが大きくなります。
- 一度きりの大型キャンペーンよりも、
失敗しにくいマーケティング予算の見直しサイクル
どれくらいの頻度で見直せばいいのか
おすすめの目安は、次の3段階です。
- 月次
- 各チャネルの数字(クリック数、CV数、CPA)を確認
- 明らかな不調チャネルがあれば微調整
- 四半期(3ヶ月)
- 「伸びているチャネル」「頭打ちのチャネル」を整理
- 予算配分の見直し(伸びているところに寄せる、不調は縮小)
- 年次
- 事業全体の戦略・売上目標の見直し
- 広告予算の総額(売上に対する%)を再設定
特に広告を始めたばかりの半年〜1年は、「数字を読むことに慣れる期間」と割り切って、毎月の簡単なレポートで「傾向」を掴んでいくとよいです。
この定点観測を続けることで、
- 広告費を増やすべきタイミング
- 逆に、あえて減らしてもよいタイミング
も数字から判断できるようになり、「勘ではなくデータ」で守りと攻めを切り替えられるようになります。
見直しのときにチェックすべき3つの指標
-
1件あたり獲得単価(CPA)
目標CPAに対して実績はどうか。
チャネル別・キーワード別に見ると、改善のヒントが見えてきます。 -
投資対効果(ROI/ROAS)
- ROI(投資利益率):(広告経由の利益 − 広告費)÷ 広告費
- ROAS(広告費回収率):広告経由売上 ÷ 広告費
たとえばROAS300%(1万円使って3万円売上)など、「いくら使えば、いくら返ってくるのか」をシンプルに把握します。
-
LTV(顧客生涯価値)とのバランス
初回だけで終わるビジネスか、リピート前提かで許容CPAが変わります。
LTVが高いほど、「最初の1件を取るためにかけられる金額」が増えます。
ここに「チャネルごとの役割」も合わせて見ると、より判断がしやすくなります。
- 直接CVを取るチャネル(例:検索広告)は、CPA・ROASを重視
- 認知・指名検索を増やすチャネル(例:YouTube・SNS)は、直接のCPAだけでなく、指名検索数の増加や他チャネルのCV増加とセットで評価
- 既存顧客向けチャネル(LINE・メルマガ)は、LTV・リピート率・解約率の変化を見る
というように、「全部同じ物差しで評価しない」ことも、予算見直しでは重要です。
ここまで読んだ方への「次の一手」チェックリスト
今日決めてしまいたい三つの数字
- 月間売上目標
3ヶ月後・半年後の「現実的かつ少し攻めた」数字を1つ決めます。 - 目標CPA
平均客単価と粗利率から、「1件あたりいくらまでなら使っていいか」を具体的な金額で書き出します。 - 1ヶ月あたりのマーケティング予算
目標CPA × 必要な新規客数から、「下限〜上限」のレンジを決め、その中で実行ラインを1つ決めます。
余裕があれば、
- 広告費が売上の何%になっているか
- 望ましい成長スピードに対して、今の投資額は足りているか
も一緒にメモしておくと、半年〜1年後の見直しがスムーズになります。
明日から実行するためのアクションリスト
- 既存データの洗い出し
- 過去3〜6ヶ月分の売上、客数、平均客単価、広告費を整理します。
- 集中するチャネルの決定
- 「今すぐ客」用チャネル(例:検索広告)を1つ、
- 「将来客」用チャネル(例:ブログ・SNS)を1つ選び、優先順位をつけます。
- テスト枠の設定と期間の決定
- 予算のうち30%をテスト枠とし、
- 何をテストするか(キーワード/クリエイティブ/ターゲット)
- どの期間テストするか(まずは3ヶ月)
を具体的に決めます。
- 予算のうち30%をテスト枠とし、
可能であれば、
- 「戦略・制作・媒体費・分析」の4つに、ざっくりと金額を振り分けてみる
- 補助金・助成金が使えそうか、商工会議所や専門家に一度相談してみる
といった一歩も加えることで、「なんとなくのマーケティング予算」から、売上目標・利益率・キャッシュフローに紐づいた“失敗しにくい予算設計”へと近づいていきます。
マーケティング予算は、「余ったら使うお小遣い」ではなく、売上と利益をつくるための投資額です。小さな会社ほど、この数字の決め方が数ヶ月後の資金繰りを左右します。この記事では、感覚ではなく数字を軸に考えるための三つのルールをお伝えしました。
①売上と利益から逆算して、「何件ほしいか」と「1件あたりいくらまでかけられるか」を先に決めること。
②チャネルを増やしすぎず、まずは1〜2チャネルに集中して、勝ち筋が見えたところに厚く投下すること。
③どれだけ少額でもテスト枠を残し、毎月〜四半期ごとに数字を見て配分を見直すこと。
完璧な予算を一度で作る必要はありません。「月間売上目標」「目標CPA」「1ヶ月の予算レンジ」の三つを、今日の時点の前提で決めてみてください。そのうえで、実際の数字に合わせて配分を整えていけば、自社なりの“外しにくい”マーケティング予算がかたちになっていきます。