専任担当を置けない小さな会社がマーケティングを回すための工夫

目次

「マーケティング担当を配置できない」小さな会社のリアルな課題

なぜ専任マーケティング担当を置けないのか

人材を採用できない

「うちみたいな小さな会社に、マーケティング担当なんて無理だよ」――そう感じていないでしょうか。
人もお金も時間も限られるなかで、営業や現場を優先せざるを得ず、マーケティングは「いつかやりたいけれど、今ではないこと」として後ろに追いやられがちです。求人を出しても応募が来ない、採用しても育てる余裕がない、社内で誰かに任せようとすると残業前提になる。結果として、「やらなきゃいけないのはわかっているのに、手を付けられない」状態が長く続いてしまいます。

ただ、その間にも見込み客はネットで情報を集め、比較検討を行っています。そこに自社の情報がなければ、存在していないのと同じ扱いになり、気づかないうちにチャンスを落としているかもしれません。

この記事では、「マーケティング担当を配置できない」という前提に立ちながら、小さな会社でも現実的に取り組める考え方と体制づくりを、具体的な手順とともに整理していきます。

小さな会社がマーケティング専任を置けない主な理由は、「人もお金も時間も足りない」ことにあります。

マーケティング経験者の採用相場は年収400〜600万円ほどと言われますが、地方や中小企業では応募がほとんど来ないことも珍しくありません。少子高齢化による人材不足のなかで、営業・エンジニア・現場スタッフの確保だけで手一杯になりがちです。

さらに、Webマーケティングの経験者は大企業やネット専業企業に流れやすく、「中小企業×地方」という条件になると、そもそもの母数が少なくなります。その結果、「求人を出しても3か月〜半年応募ゼロ」といった状況になりやすいのが実情です。

採用しても育てる余裕がない

未経験者を採用して一から育成するには、OJTや勉強時間の確保が必要ですが、小さな会社は目の前の業務で手一杯です。「売上に直結しない仕事」に時間を割きにくく、育成まで手が回りません。

特にWeb広告や分析ツール(Google広告、Meta広告、Google Analytics など)は覚えることが多く、試行錯誤も欠かせません。育成設計や研修文化が整っていない中小企業では、「とりあえず任せてみる → うまくいかない → やっぱりやめる」という悪循環に陥りやすく、多くのケースで失敗に終わってしまいます。

社内のリソースが常にギリギリ

社長も社員も一人が複数の業務を兼ねる「多能工化」が進んでおり、そこに「マーケティングもお願いします」と追加すると、残業前提か、どこかの業務を削るしかありません。その調整が難しいため、専任ポジションを用意できないのが現実です。

働き方改革で残業削減が求められる一方、「定時内でマーケティングの時間を確保する」ための業務設計が整っていない会社が多く、結果としてマーケティングは「空いた時間でやる仕事」に押し込まれがちです。

こうした背景から、「やらなければいけないのはわかっているが、専任を置くのは難しい」という状況に陥りやすくなります。

「営業がついでにやるマーケティング」がうまくいかない理由

優先順位で必ず営業に負ける

専任が置けない代わりに、「営業が時間のあるときにWeb更新やSNSを行う」といったやり方は一般的ですが、成果につながらないことが多くあります。

目先の商談・訪問・見積もりがあれば、マーケティングは必ず後回しになります。その結果、「3か月更新が止まったブログ」「たまに投稿されるだけのSNS」が生まれ、継続しないため成果も出ません。

社内評価も「受注金額」中心であることが多く、「マーケティングを頑張っても給料に反映されない」構造になりがちです。担当者にとってマーケティング業務は「やっても評価されない残業タスク」となり、自然と後回しになります。

片手間では習熟できない

Web広告、SEO、アクセス解析といった領域は、一定の知識と継続的な試行錯誤が必要です。月に数時間だけ触っている程度ではノウハウが蓄積されず、「よくわからないままお金だけ減った」という結果になりがちです。

ツールの仕様変更やアルゴリズムの変化も早いため、情報収集を怠ると「効果の薄い古い施策」を続けてしまうリスクもあります。

組織としての役割・評価が曖昧

「営業もマーケティングもやってほしい」と指示しながら、評価軸は売上だけ、というケースも少なくありません。その場合、営業として売上を優先するのは当然で、マーケティングは「善意のボランティア業務」になってしまいます。

結果として、「誰も本気で責任を持たないマーケティング」になり、属人化したまま施策が散発的に終わってしまいます。

このように、「ついでに任せる」やり方は、構造上どうしても長続きしづらく、成果も出にくいのです。

放置すると起こる機会損失

見込み客に「存在していない」のと同じになる

マーケティングに手が回っていない状態を放置すると、次のような機会損失が発生します。

検索しても出てこない、情報が古い、事例が載っていないといった状態では、せっかくニーズがあっても比較の土俵にすら上がれません。他社のWebサイトや口コミに負けてしまい、問い合わせが起こらないまま終わってしまいます。

特に2020年代以降は、BtoB・BtoCを問わず「まずはネットで調べる」が当たり前になりました。Web上に情報がない会社は、若い決裁者ほど選択肢から外れやすくなっています。

営業の効率がいつまでも悪い

マーケティングが弱い会社では、営業がゼロから説明・教育を行う必要があります。見込み客の温度が低いまま訪問するため、「断られる前提」の提案が増え、移動時間や人件費が無駄になりがちです。

マーケティングで「事前に知ってもらう」「比較材料を渡しておく」ことができていれば、商談時の説明時間が短くなり、1人あたりが追える案件数も増やせます。こうした効率化のチャンスを逃している状態とも言えます。

価格競争に巻き込まれやすくなる

価値を伝えるコンテンツや事例がないと、「安いかどうか」だけで比較されがちです。ブランドや信頼関係を育てるマーケティングをしている競合と比べて、価格を下げないと選んでもらえない構造になりやすくなります。

特に地域密着型や職人系ビジネスでは、「こだわり」や「実績のストーリー」を伝えないまま価格だけ見られると、本来取れる単価よりも安く受注してしまうことが増えます。

最大の問題は、「失っているチャンス」が目に見えにくいことです。だからこそ、「専任はいない前提」でマーケティングを仕組み化する工夫が重要になります。


小さな会社だからこそできるマーケティングの考え方

「全部はやらない」を前提にする絞り込み思考

マーケティングの教科書には、SEO、SNS、広告、展示会、メルマガ、動画、ホワイトペーパーなど、さまざまな施策が並びます。しかし、小さな会社がこれらをすべて実行しようとすると、確実に破綻します。

前提にすべきは、「全部はやらない」「やることを減らすこと自体が戦略」という考え方です。

  • 自社の商材・顧客に合わないチャネルはやらない
  • 効果測定できない施策は、原則やらない
  • 継続できない頻度・量ではやらない

この割り切りがない限り、「どれも中途半端で続かない」状態から抜け出せません。

特に中小企業では、人的リソースがボトルネックになりやすいため、「やることを決める前に、やらないことリストを作る」くらいの発想が現実的です。

売上に直結するマーケティングだけに集中する

小さな会社は、「見た目がカッコいい施策」ではなく、「売上につながりやすい施策」から着手すべきです。状況に応じて、次のような優先順位が考えられます。

すでに顧客がいる場合

  • 既存顧客へのフォロー(メール・ニュースレター・事例共有)
  • 紹介を生みやすくする仕組み(紹介カード、紹介特典の設定)

問い合わせが少しある場合

  • WebサイトやGoogleビジネスプロフィールを整え、問い合わせ率を高める
  • よくある質問や事例を増やし、「問い合わせの後押し」をする

問い合わせがほとんどない場合

  • 広告やMEO、パートナー営業など、「見つけてもらう」施策に注力する

「認知が足りないのか」「問い合わせまで行かないのか」「受注に転換できないのか」によって、打つべき手は変わります。ここを整理せず、「なんとなくSNSを始める」といった動きは避けた方が安全です。

また、経営資源が限られる会社ほど、「既存顧客のLTV(顧客生涯価値)向上」「紹介の仕組みづくり」といった単価・リピートを高める施策の方が投資対効果が良いことも多く、「新規集客一辺倒」にしないバランス感覚が重要です。

経営者・営業・バックオフィスの役割分担イメージ

専任担当がいない前提でマーケティングを回すためには、「誰が何をやるか」を最初に決めておくことが重要です。

経営者の役割

  • 方向性と優先順位を決める(どのチャネルに予算を割くか)
  • KPIを承認し、月1回は数字を確認する
  • 外注先との最終的な窓口を担う(契約・方針決定)

営業(または現場担当)の役割

  • 顧客インタビューへの協力
  • 事例やお客様の声の収集
  • 「よくある質問」の洗い出し

バックオフィス(総務・経理・事務など)の役割

  • ブログ・お知らせの更新作業
  • メール配信の設定・送信
  • 外注先との日常的な連絡・スケジュール調整

このように、「企画・判断は経営者」「顧客情報は営業」「運用の細部はバックオフィス」と分担を決めておくことで、マーケティングタスクを押し付け合う状態を避けやすくなります。

中小企業診断士など外部コンサルを入れて、この役割分担やプロセス設計を一度整理してもらうと、社内の混乱が減り、兼務体制でも回しやすくなります。


まず最初にやるべきこと:目的とKPIを決める

「認知」「問い合わせ」「受注」どこを増やしたいのか

マーケティングを始める前に必ず確認したいのが、「どこを増やしたいのか」です。大きく分けると、次の3つの段階があります。

段階 内容 代表的な指標
1. 認知 見込み客に知ってもらう段階 サイト訪問数 /
Googleビジネスプロフィールの表示回数 /
SNSやYouTubeの閲覧数
2. 問い合わせ 具体的な行動を起こしてもらう段階 問い合わせ件数 /
資料請求・見積もり依頼数 /
来店予約・来場予約数
3. 受注 売上に直結する段階 見積もりからの成約率 /
1件あたりの単価 /
既存顧客のリピート率・継続率

自社が一番困っているのはどこなのかを、経営者と営業で認識合わせしておくことがスタートラインです。

ここが曖昧なまま外注やツール導入に進むと、「何をもって成功とするか」が共有されず、レポートを見ても判断できない状態になりやすいため注意が必要です。

小さな会社向けのシンプルなKPI設定例

小さな会社では、KPIは「ひと目でわかる簡単なもの」に絞った方が続きます。例えば次のような設定です。

「月の問い合わせ件数」を最重要KPIにする

  • 目標:月10件 → 月15件
  • そのために見る数字
    • Webサイト訪問数
    • Googleビジネスプロフィールからの電話・ルート検索数

「受注件数×単価」をKPIにする

  • 目標:月5件×50万円 → 月6件×55万円
  • そのために見る数字
    • 見積もり提出数
    • 見積もりから成約までの率

このように「1〜2個の指標」に絞ることで、数字管理が現実的になります。

さらに一歩進めるなら、「いくらまで広告・外注に投資してよいか(目標CPA・LTV)」といった大まかな許容ラインも決めておくと、施策ごとの「やめる・続ける」の判断がしやすくなります。

1人分の時間で追える数字だけに絞るコツ

専任がいない会社では、「数字を集めるだけで疲れて終わる」ことがよくあります。そうならないために、次のようなルールをおすすめします。

  • 毎月30分以内で集計できる数字だけを見る
  • Excelやスプレッドシート1枚に収まる量にする
  • 「見るだけで何も変えない数字」は捨てる

例えば最初は、「問い合わせ件数」「Webサイト訪問数」「受注件数」程度にとどめ、慣れてから細かい指標を足していく方が、運用としては安定します。

外注先が数十ページにわたる詳細レポートを出してきたとしても、「自社で意思決定に使う3〜5指標はこれ」と決めておき、その数字だけ毎月チェックするくらいの割り切りが、専任不在の組織には向いています。


社内でできること・できないことを整理する

社内で対応しやすいマーケティング業務

小さな会社でも、工夫次第で社内対応しやすい業務があります。

顧客インタビュー

実際のお客様に「なぜ当社を選んだのか」「他社と何が違ったか」などを聞く取り組みです。営業や社長が訪問時・オンライン商談時についでに質問するだけでも十分です。

この「生の声」は外注では取りづらい情報であり、コンテンツや営業トークの精度を上げるうえで、もっとも重要な素材になります。

事例作成

顧客インタビューをもとに、「導入前の悩み」「導入後の変化」をA4・1〜2枚にまとめるだけでも立派な事例になります。文章の整理だけ外注する方法もあります。

工務店やECなど中小企業の成功例でも、「事例を増やしたことで問い合わせの質が上がった」という報告が多く、少ないコストで始められる定番施策です。

ブログ・お知らせ更新

「新サービス開始」「よくある質問の追加」「スタッフ紹介」など、社内からしか出てこない情報は内製した方が早くて正確です。文章が苦手な場合は箇条書きメモまで社内で作り、整える部分だけを外注する方法もあります。

既存顧客向けのメールやニュースレター

月1回、簡単な近況報告や事例紹介を送るだけでも、休眠顧客の掘り起こしに役立ちます。内容のネタ出しは営業・現場、送信作業はバックオフィス、と役割を分けると運用しやすくなります。

紙のニュースレターを活用した中小企業の事例でも、「既存顧客との接点を増やしたことで、単価アップや紹介増につながった」というケースが多数見られます。

絶対に外注した方が良い領域

一方で、「ここはプロに任せたほうが安全・効率的」という領域もあります。

広告運用(Google広告・Meta広告など)

入札単価の調整、ターゲティング設定、クリエイティブのABテストなど、専門知識と毎週のチェックが必要です。片手間で扱うと無駄な広告費が膨らみやすくなります。

特にクリック単価が高い業界では、「設定を少し誤っただけで数十万円が一瞬で消える」こともあり、中小企業向けの広告代行やフリーランスに任せた方が結果的に安く済むケースが多いです。

SEOの技術設計

サイト構造、内部リンク設計、ページ速度、モバイル対応など、「作ってしまってから直すと高くつく」部分です。最初の設計だけでも専門家に見てもらう価値があります。

コンテンツ自体は内製しても、「どのテーマをどの構成で出すか」「サイト全体の情報設計をどうするか」といった枠組みだけ外注するハイブリッド型も有効です。

Web解析・トラッキング設定

Google Analyticsやタグマネージャーの設定、コンバージョン計測などは、一度プロに整えてもらうと、その後の意思決定が格段に楽になります。誤ったデータを見て判断してしまうリスクも減らせます。

中小企業向けの伴走支援サービスでは、「初期1〜2か月で計測環境を整え、その後は社内で数字を見るだけ」という設計も一般的になりつつあります。

「半内製・半外注」に分けるためのチェックリスト

次のような問いで、「社内対応か外注か」を仕分けすると整理しやすくなります。

  • これは「当社ならではの情報」か? → Yesなら社内対応
  • これは「毎週〜毎月、継続してチューニングが必要」か? → Yesなら外注候補
  • 間違えると「お金を大きく失う」「信用を落とす」リスクは高いか? → 高いなら外注
  • 社内で担当した場合、1か月あたり何時間かかりそうか? → 8時間を超えるなら外注検討

これらを紙1枚やシート1枚にまとめておくと、外注先との話し合いもスムーズになります。

将来的に内製化したい領域については、「最初の半年〜1年だけ外注で走りながら、運用ノウハウを一緒にドキュメント化してもらう」といった契約の仕方も検討できます。


専任担当がいなくても回る“ミニマーケ体制”の作り方

週2〜3時間で動かせるマーケティングタスクの設計

専任を置けない会社でも、「週2〜3時間×1〜2人」であれば捻出できるケースは少なくありません。その時間で回せるタスク例は次の通りです。

  • 月1本の事例・ブログ記事の作成(ネタ出し〜ラフ作成まで)
  • Googleビジネスプロフィールの写真追加・投稿更新(週1回)
  • 既存顧客向けニュースレターのラフ作成(月1回)
  • 外注先からのレポート確認とフィードバック(月1回30分)

重要なのは、「毎週・毎月の定例タスク表」を作り、誰がいつ何をやるかを明確にしておくことです。

タスクとスケジュールの標準化ができている中小企業ほど、少ない工数でマーケティングや営業関連のアウトプットを安定させやすいとされています。

兼務担当者を決めるときのポイント

兼務担当者を選ぶ際は、次のようなポイントを押さえると失敗しにくくなります。

  • 業務の波が比較的読みやすい人(繁閑差が激しすぎない)
  • 社外とのやりとりが苦手ではない人(外注先対応があるため)
  • 社内で信頼されている人(コンテンツ確認・依頼がしやすい)

逆に、「営業成績トップの営業」「現場のエース」など、すでにフル稼働している人をマーケティング兼務にするのは避けたほうが無難です。

また、「肩書きだけマーケティング担当を増やす」のではなく、スケジュール上で実際に時間を空けておく(例:毎週水曜の午後はマーケティング専用時間)ことが、形骸化を防ぐポイントになります。

経営者が押さえておくべき最低限の管理項目

専任がいない環境では、経営者自身が次の3つだけは毎月チェックすることをおすすめします。

  1. KPIの数字(問い合わせ件数、受注件数など)
  2. 外注費・広告費などのマーケティング投資額
  3. 今行っている施策ごとの「やめる基準・続ける基準」

「数字が悪いから頑張れ」と指示するのではなく、「この数字なら広告はいったん止める」「このチャネルは3か月延長する」といった、続けるか・やめるかの判断をするのが経営者の役割です。

この「やめる基準」を明確にしている会社ほど、効果の薄い施策にお金を払い続けることが少なく、限られた予算でも成果を出しやすいとされています。


外注をうまく使うための基本ルール

小さな会社に合うマーケティング外注の選び方

一口に外注といっても、いくつかタイプがあります。

中小特化の代理店

  • 特徴:月10〜50万円程度で、戦略から実行までワンストップ対応するケースが多い
  • 向いている会社:自社にマーケティング担当がほぼおらず、ある程度の予算を出せる会社

フリーランス

  • 特徴:SEO、広告、SNSなど得意分野に特化し、価格も柔軟
  • 向いている会社:特定の領域だけ手伝ってほしい、密なコミュニケーションを取りたい会社

コンサル・中小企業診断士

  • 特徴:体制設計やKPIの決め方など「仕組みづくり」を支援。実務代行は別のパートナーを紹介されることもある
  • 向いている会社:何から始めれば良いかわからない、組織全体の見直しもしたい会社

自社の状況(人・予算・期間)と照らし合わせて、どのタイプが合うかを事前に整理しておくと選びやすくなります。

また、「同業界の支援実績があるか」「中小〜小規模の支援に慣れているか」という観点で見ると、現実的な提案をしてくれるパートナーを選びやすくなります。

「丸投げで失敗する」パターンとその防ぎ方

よくある失敗パターンは、「目標も役割も決めずに丸投げする」ケースです。

失敗例

  • 「問い合わせを増やしたい」と言いながら、問い合わせ数を社内で集計していない
  • 広告代行に任せたが、どんなキーワードで出稿しているのか把握していない
  • コンテンツ制作を外注したが、社内チェックが追いつかず品質がばらつく

防ぎ方

  • 目的とKPIを最初に共有する
  • 毎月(または2週に1回)30分の定例ミーティングを設定する
  • 「任せること」と「自社で必ず確認すること」を紙に書いて合意する

外注は「作業をしてくれる相手」ではありますが、「考えること・決めること」まで丸投げしてしまうと、自社にノウハウが残らず、依存度だけが高まってしまいます。

成功している中小企業は、「戦略の最終決定権とKPI管理は社内」「実務と専門領域は外注」という線引きを意識しており、このバランスが長期的な成果につながっています。

契約前に必ず確認したい5つのポイント

  1. 成果指標(KPI)は何か
  2. 月々のレポート内容と頻度はどうか
  3. 作成したコンテンツ・データの所有権はどちらにあるか
  4. 最低契約期間と解約条件はどうなっているか
  5. コミュニケーション窓口(担当者)は誰か

この5つを契約書や覚書の形で明文化しておくことで、「思っていたのと違う」という事態を大きく減らせます。

あわせて、個人情報やアクセスデータの扱い、外注先が再委託を行う場合のルールなども確認しておくと、法務・セキュリティ面のトラブルも防ぎやすくなります。


予算が限られているときの優先順位の付け方

月3万円/月10万円/月30万円なら何に使うか

おおまかな目安として、次のような使い方が考えられます。

月3万円程度の場合

  • Googleビジネスプロフィールの整備+簡単な広告テスト
  • メール配信ツールや簡易アクセス解析ツールの導入
  • ライターへのブログ記事作成依頼(月1本)

月10万円程度の場合

  • 小規模な広告運用代行(検索広告・リマーケティングなど)
  • SEOの初期診断+サイト改善指示
  • コンテンツ制作(月2〜4本)+簡易レポート

月30万円程度の場合

  • 戦略設計+広告運用+コンテンツ制作を含むワンストップ支援
  • MAツール導入支援+メールステップ配信設計
  • 営業・インサイドセールスと連動したリード獲得〜育成施策

いずれの予算帯でも、「人件費を固定で増やす代わりに、外注費として変動費化する」という発想に立つと、経営判断がしやすくなります。

短期で結果を見たいときの施策(広告など)

「3か月以内に何かしらの反応が欲しい」という場合は、次のような短期施策が有効です。

リスティング広告(検索連動型広告)

  • すでにニーズがある人に表示されるため、反応が出やすい
  • 業界によっては単価が高いため、テストしながら調整が必要

リマーケティング広告

  • 一度サイトに来た人に再度アプローチするため、効率が良い
  • サイト訪問数が少ないと効果が出にくい点には注意が必要

既存顧客向けキャンペーンメール

  • 新規獲得よりも成約率が高いことが多い
  • 在庫消化や新サービスのテストにも向いている

短期施策に偏りすぎると、「広告費を止めたら何も残らない」状態になりやすいため、並行して「今の投資が中長期の資産にもなるか?」という視点も持っておくことが重要です。

中長期で効く施策(SEO・コンテンツ・SNSなど)

「半年〜1年かけて土台を作りたい」場合は、次のような施策が有効です。

SEO・コンテンツマーケティング

  • 「お客様が検索しそうな悩み」をテーマに記事・事例を蓄積する
  • 広 告費に依存せず、安定した流入が見込める

SNS・YouTube

  • 業界によっては、採用やブランディング効果も高い
  • 継続運用が前提のため、月1〜2本でも続けられる体制づくりが必要

短期施策と中長期施策を組み合わせ、「広告で短期的に問い合わせを作りつつ、コンテンツで土台を作る」という二段構えが理想的です。

中小企業の成功事例でも、「初期は広告7:コンテンツ3、1年後には広告3:コンテンツ7」と比重をシフトしていくパターンが多く見られます。


具体的な施策例:小さな会社が最低限やっておきたいこと

Webサイト・Googleビジネスプロフィールの整備

Webサイト

  • 会社概要・サービス内容・料金の目安・事例・お問い合わせフォームを揃える
  • スマホで見たときに読みやすいか必ず確認する

Googleビジネスプロフィール(旧Googleマイビジネス)

  • 営業時間・住所・電話番号・WebサイトURLを最新に保つ
  • 写真を複数枚登録し、月1回は「更新」投稿を行う
  • レビュー(口コミ)を少しずつ集める

これだけでも「探されたときに選ばれる確率」は大きく変わります。

実際に、MEO・ローカルSEOに取り組んだ工務店や店舗ビジネスでは、「指名検索だけでなく、一般キーワードからの流入・来店が増えた」というレポートも多く、中小企業にとって費用対効果の高い“最低限の土台”と言えます。

既存顧客へのメール・ニュースレター活用

月1回のメール配信

  • 最近の事例
  • お客様からの声
  • よくある質問への回答

こうした内容を簡単にまとめて送るだけでも、休眠顧客からの問い合わせが復活するケースがあります。

紙のニュースレター

高齢の顧客が多い業界では、あえて紙のニュースレターを郵送する方が効果的なこともあります。印刷・発送だけを外注する形で、無理なく続ける方法を検討できます。

このような「顧客との定期接点づくり」は、広告費をほとんどかけずに売上の底上げができるため、人手不足の中小企業にこそ向いた施策です。

営業と連動した「事例づくり」「よくある質問」の公開

  • 営業が日々聞かれている質問をリスト化し、Webサイトの「よくある質問」に掲載する
  • 成約した案件で「決めた理由」を顧客に一言聞き、それを事例の一部として掲載する

これにより、見込み客が「自分と似たケース」をイメージしやすくなり、問い合わせに踏み切りやすくなります。

また営業担当者にとっても、「事前に読んでおいてください」と渡せるコンテンツが増えることで、商談の質が上がり、価格交渉でも有利になりやすくなります。

1つのコンテンツを何度も使い回す工夫

コンテンツ制作は負担が大きいため、「1つ作ったら3回以上使う」と決めておくと効率が上がります。

  • 事例記事を

    • Webサイトの実績紹介に掲載
    • ニュースレターに再掲載
    • 営業資料(PDF)の一部として活用
  • ブログ記事を

    • SNS投稿のネタに分解
    • メルマガで「人気記事紹介」として再案内

このように「再利用」を前提にしておくと、少ない労力で接点を増やせます。

外注する場合も、「1本の記事を複数フォーマットに展開する前提」で依頼すると、同じ制作費でも得られる成果を増やしやすくなります。


生成AI・ツールを使って専任担当の“代わり”を作る

小さな会社こそAIを使うべき理由

近年は、文章・画像・動画などをAIで補助できる環境が整ってきました。小さな会社こそAIを活用すべき理由は次の通りです。

  • 人を1人雇うより圧倒的に安い
  • 24時間いつでも相談・利用できる
  • 企画・構成のたたき台を素早く作れる

人材不足に悩む中小企業にとって、「AIをマーケティングの相棒にする」ことは現実的な選択肢になりつつあります。

今後は外注業者側もAI活用を前提にサービス設計するため、「AIで一次案を出し、プロがチェック・改善する」という形で、より低コストに高度な施策を提供できるようになると予測されています。

AIで自動化・効率化しやすいマーケティング業務

  • ブログ・メール・ニュースレターのたたき台作成
    「このテーマで、顧客は○○業界、文字数は1,000文字程度で」と指示すれば、原稿のベースを出してくれます。社内で修正・加筆すれば、ライティング時間を大きく削減できます。
  • キャッチコピー・見出し案のブレインストーミング
    何十案も瞬時に出してくれるため、その中から使えるものを選ぶだけで済みます。
  • 企画アイデア・施策の洗い出し
    「予算月3万円、BtoB、ITサービス」でできるマーケティング案を出させ、その中から実行可能なものを選ぶ、といった使い方も有効です。

これらはマーケティング未経験の担当者でも取り組みやすく、「ゼロから考える時間」を大幅に減らしてくれます。

無理なく始められる無料〜低コストツールの活用イメージ

  • 生成AI(文章・画像):ChatGPTなど
  • メール配信:無料枠のあるメールマーケティングツール
  • アクセス解析:Google Analytics(無料)
  • ToDo管理:TrelloやNotionなどの無料プラン

「まずは無料枠で試し、使えるとわかったものから有料に切り替える」というステップで導入すると、コストを抑えながらマーケティングの生産性を高められます。

重要なのは、「ツール導入そのもの」を目的にせず、「決めたKPIを追うために、どのツールが役立つか」という視点で選ぶことです。


成功している小さな会社のパターンから学ぶ

専任ゼロでも成果を出している会社の共通点

  • 「全部やろうとしない」で、やることを3つ以内に絞っている
  • 社長がKPIと予算だけは必ず毎月チェックしている
  • 外注を「先生」ではなく「パートナー」として扱い、社内にノウハウを残している

特に、KPIの設定と「やめる基準」を決めている会社は、無駄な施策が少なく、少ない予算でも結果を出しやすい傾向があります。

中小企業向けの成功事例でも、「外注任せにせず、社内に1人“窓口兼学習担当”を立てたことで、1〜2年後にはかなりの部分を内製できるようになった」というパターンが多く報告されています。

「営業主導+外注」「バックオフィス主導+AI」などの型

営業主導+外注型

  • 営業が顧客インタビュー・事例の素材を集める
  • 外注がそれをコンテンツ化・広告運用する
  • 社長が月1回、数字と方向性を確認する

バックオフィス主導+AI型

  • バックオフィスがAIを使ってブログ・メールのたたき台を作る
  • 営業・社長が内容をチェック・修正する
  • 必要に応じてSEOや広告だけ専門家にスポット相談する

自社の人材構成に合わせて、このような「型」を決めておくと迷いが減ります。

将来的には、「マーケティング部門」という形でなくとも、「売上づくりのチーム」として営業・バックオフィス・外注・AIをどう組み合わせるか、という発想が鍵になります。

失敗例:未経験者をマーケ担当にしてしまったケース

多い失敗パターンは、「経験ゼロの若手にマーケティングを丸投げし、教育・フォローをしない」ケースです。

  • 何をしたらよいか分からず、SNS更新だけに終始する
  • 広告を自己流で出稿してしまい、数十万円の損失を出す
  • 成果が出ず、本人のモチベーションも下がる

このような場合、「未経験者を責める」のではなく、「仕組み・役割設計なしで任せた会社側の問題」と捉え直すことが重要です。

未経験者に任せるのであれば、外部講座・外部メンター・外注先との連携など、学びと伴走の仕組みをセットで用意する必要があります。

「人を採る余裕はないが、今いる人材でなんとかしたい」場合こそ、生成AIや中小特化コンサルとのハイブリッド運用を前提に、「1人で抱え込ませない」設計が重要になります。


今日から着手できる7日間のミニアクションプラン

1日目:現状の洗い出しと目標設定

  • 今年(または今期)の売上目標と、現状とのギャップを確認する
  • 「認知」「問い合わせ」「受注」のどこが一番弱いかを営業と話し合う
  • 最重要KPIを1つだけ決める(例:月の問い合わせ件数)

2〜3日目:社内でできること/できないことの仕分け

  • 現在行っているマーケティング的な活動を書き出す(Web更新、チラシ、展示会参加、SNSなど)
  • 先述のチェックリストに沿って、「社内でやる」「外注候補」に分類する
  • 各タスクに「ざっくり月何時間かかるか」をメモする

4〜5日目:外注・ツール候補のリストアップ

  • 自社に合いそうな代理店・フリーランス・コンサルを3〜5社ピックアップする
  • 使えそうな無料〜低コストのツール(メール配信・AI・解析など)を調査する
  • 気になる先に問い合わせメールや資料請求を行う

6〜7日目:最初の1施策を決めて動かし始める

  • 「まず3か月だけやる施策」を1つ決める
    例:

    • Googleビジネスプロフィールの整備+月1回投稿
    • 既存顧客向けの月1ニュースレター
    • 事例を3本作成してWebに掲載
  • 実行担当(社内・外注)とスケジュールを確定する
  • 1か月後・3か月後に「続けるか・止めるか」を判断する場をカレンダーに登録する

この7日間プランをきっかけに、「専任がいないけれど、マーケティングは動いている」という状態を少しずつ作っていくことができます。重要なのは、「完璧な計画」ではなく、「小さく始めて、続けながら調整していくこと」です。


まとめ:専任を置く前に「専任がいない前提の設計」を

人もお金も時間も限られる小さな会社では、「マーケティング担当を採用するかどうか」を悩む前に、「専任がいない前提でどう回すか」を設計しておくことが現実的です。

全部に手を出さず、「どこを増やしたいのか(認知・問い合わせ・受注)」をはっきりさせ、売上に結びつきやすい施策を少数に絞る。経営者が方向性とKPI・予算だけは握り、営業・バックオフィス・外注・AIの役割を分けて、小さなタスクを週数時間ずつ積み上げていく。そのうえで、WebサイトとGoogleビジネスプロフィール、事例・よくある質問、既存顧客への定期的な発信といった「土台」から手を付けると、営業効率や単価にじわじわ効いてきます。

完璧さを求めて動き出しを遅らせるより、「3か月だけ試す施策を1つ決める」くらいの軽さで始め、数字を見ながらやめる・続けるを決めていく姿勢が、専任を置けない会社にとっていちばん現実的な進み方です。

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この記事を書いた人

Webマーケティング業界10年以上のフリーランス。
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