「施策が多すぎて追いつかない」。気づけば会議のたびに新しい取り組みだけが増え、現場は本業よりも申請・報告・調整に追われていないでしょうか。この記事では、施策が増えるほど現場が疲弊していく背景と、まず何から手をつけて減らしていくかを、具体的な手順とともに整理していきます。
「施策が多すぎて追いつかない」状態とは?
施策を増やすほど苦しくなる理由
施策が増えると、意思決定・確認・実務の量が指数関数的に増えていきます。経営層が新しい施策を追加するたびに、現場では申請や報告、運用ルールの変更などが発生し、その結果として本業に使える時間が削られていきます。施策そのものが目的化すると、「やること」だけが増え続け、肝心の効果は薄くなりがちです。
さらに、施策が増えるほど「どれを優先するか」という判断機会も増え、判断が経営層に集中してボトルネックになります。本来はやめるべき古い施策も、撤退ルールがないため温存され、現場のToDoリストだけが累積していく構造が生まれます。その結果、「施策を増やせば増やすほど経営が苦しくなる」という逆説的な状況に陥ります。
「現場が回らない」の裏側で起きていること
現場が回らない背景には、属人的なナレッジ、マルチタスク、基準不在による判断停滞が潜んでいます。補助金や制度変更が頻繁に起こると対応業務が増え、優先順位付けができないまま、すべてが緊急扱いになりがちです。
とくに中小企業や、再エネ関連の販売・施工のように営業・設計・申請・施工管理を同じ人が担う現場では、1件あたりの処理時間がどんどん長くなり、「仕事量は増えているのに、こなせる件数は伸びない」という状態になりやすくなります。制度対応のノウハウが一部の担当者に偏在すると、その人の不在だけで全体が止まり、「現場が回らない」という体感がさらに強くなります。
「努力が足りないから」ではなく構造の問題
現場が追いつかない原因は、個々人の努力不足ではなく、構造的な問題であることが多いです。施策設計や意思決定プロセス、リソース配分の問題をまず疑うべきです。
たとえば、政策・補助金への過度な依存により「とりあえず使える補助金は全部取りに行く」という方針を採ると、申請・報告・監査対応だけで現場が疲弊します。また、優先順位の基準が共有されていなければ、管理職も「断る」根拠を持てず、結局すべて抱え込むことになります。必要なのは、現場の努力を前提にした「がんばれ型マネジメント」ではなく、施策の数とプロセスそのものを見直すマネジメントです。
まずは今の状態を見える化する
すべての施策を書き出して「施策インベントリ」をつくる
最初のステップとして、紙やスプレッドシートに全施策を列挙し、「施策インベントリ」を作成します。施策ごとに、担当者、期限、期待効果、必要工数を記入し、可視化します。
可能であれば、「開始時期」「きっかけ(政策・顧客要望・社内発案など)」「関連する補助金・制度」も列に追加します。これにより、「選挙サイクルに合わせて始めたが、すでに制度的な前提が変わっている施策」「一度も評価されていない経営施策」などを客観的に見つけやすくなります。プロジェクト管理ツールを使っている場合は、タグやカテゴリ機能を使って、後述の4分類と紐づけられるようにしておくと便利です。
目的不明・効果不明の施策をあぶり出すチェックリスト
施策インベントリをもとに、目的が定量化できないもの、KPIがないもの、過去1年で評価されていないものを優先的に洗い出します。
チェック項目の例としては、次のような問いが有効です。
- この施策がなければ、何がどれくらい悪化するかを説明できるか
- 開始時に想定したゴールや期限が文書として残っているか
- 少なくとも四半期に一度、継続可否を議論する場があったか
これらの問いを投げかけることで、惰性で続いている施策が浮かび上がります。特に政策連動型の施策は、補助金や規制が変わったにもかかわらず、過去の前提のまま続いているケースが多いため、重点的にチェックすることが重要です。
「誰のための施策か?」で4つに分類する
施策を、顧客向け/規制対応/経営施策/現場改善の4つに分類し、利害関係と優先度を整理します。
| カテゴリ | 主な対象 | 評価の観点 |
|---|---|---|
| 顧客向け | 顧客・見込み客 | 売上や顧客満足度、解約率に直結するか |
| 規制対応 | 行政・監査機関 | 法令違反リスクや補助金返還リスクをどれだけ低減するか |
| 経営施策 | 株主・ステークホルダー | 長期の成長戦略、新産業育成、ブランドへの寄与度 |
| 現場改善 | 従業員・パートナー | 工数削減、ミス防止、人材定着への寄与度 |
この分類を行ったうえで、それぞれのカテゴリに対して「やめたときのダメージ」を点数化しておくと、後の優先順位付けや撤退判断がしやすくなります。
施策が多すぎる根本原因を特定する
政策・制度起因:補助金・規制対応で膨らむ仕事
外部制度の変更による業務増は、中長期の計画で吸収できる仕組みが必要です。
日本では、半導体、量子、再エネなどの分野で補助金や規制が頻繁に変わり、そのたびに申請様式、要件確認、報告手続きが増えます。これを場当たり的に各部署が個別対応すると、「補助金対応だけで1人月消える」「毎年ルールが変わるので常に手探りになる」といった状態に陥りやすくなります。
このような事態を避けるためには、次のような対策が有効です。
- 政策・補助金情報を集約する社内窓口を1拠点設ける
- 「すべてに応募する」のではなく、本業との整合性とROIで応募対象を絞る
- 制度の変更サイクルを見越し、プロセスやツールを汎用的に設計する
単発の対応ではなく、「仕組みとしての対応力」を整えることが重要です。
組織起因:経営が苦しくなると「施策を増やす」罠
経営状況が悪化すると、問題を施策で埋めようとして複雑化が進み、撤退ルールがないまま非効率な施策が残り続けることがあります。
売上が伸び悩むと、セミナー参加、新ツール導入、新制度の整備など「打ち手を増やす」方向に走りがちです。しかし、根本の判断基準やビジネスモデルが変わらないままであれば、問題はかたちを変えて再発し、そのたびに新たな施策が追加され、組織は施策だらけになってしまいます。
これを避けるためには、次のような仕組みづくりが有効です。
- 新施策を立ち上げる際に「終了条件(いつ・何が起きたらやめるか)」を事前に決める
- 既存施策を四半期ごとに棚卸しし、「やめる」「縮小する」判断を意図的に行う
- 経営会議で「新施策の数」だけでなく「やめた施策の数」も評価する
このように、「撤退を許容する文化」を組織として持つことが不可欠です。
現場起因:人手不足とマルチタスクによるプロセスの破綻
少人数で営業・設計・申請を兼務すると、一人あたりの処理時間が伸び、ボトルネックが生まれます。
特に再エネや建設、BtoBサービスなど、案件ごとに見積もり・設計・許認可・施工管理が必要な業種では、「一人ひとりが何役も兼務している」状態が当たり前になっています。そこに政策変更や新ツール導入といった施策が加わると、次のような問題が起こりやすくなります。
- 一人あたりのタスク数が増えすぎて、重要な案件の進捗が見えなくなる
- アイゼンハワーマトリクスでいう「重要だが緊急でない改善活動(B象限)」が常に後回しになる
- 属人的対応が増え、標準化や委譲が進まない
根本的には、役割分担、標準化、委譲の設計をやり直す必要があります。
判断基準の不在:やる/やらないを決められない構造
判断基準が曖昧なままだと、「全部だいじ」が常態化し、結果として何も減らせなくなります。
「顧客のため」「社会のため」「成長のため」といった抽象的な理由だけでは、現場の管理職は施策を断ることができません。その結果、
- 緊急度が高いものばかりが優先され、重要だが緊急でない施策にいつまでも着手できない
- 各部門がそれぞれの論理で「重要」と主張し、全体最適の観点が失われる
といった事態を招きます。
これを防ぐには、次のような「意思決定のルールづくり」が欠かせません。
- 重要度・緊急度・影響度などのスコアリング基準を文書化する
- 「どの条件を満たせば施策をやめられるか」「どの条件なら先送りできるか」を定義する
- 最終判断者と判断頻度(例:週次・月次レビュー)を決める
「やることを減らす」ための判断基準をつくる
アイゼンハワーマトリクスで施策を4象限に仕分ける
施策を、緊急度×重要度で4象限(A〜D)に分類し、とくに「重要だが緊急でない施策(B象限)」に投資する文化をつくります。具体的には、次のような整理です。
| 象限 | 区分 | 代表例 | 基本方針 |
|---|---|---|---|
| A | 緊急かつ重要 | クレーム対応、期限直前の法令対応など | 即対応。ただしAが増えすぎている場合は原因分析を行う |
| B | 緊急ではないが重要 | 業務改善、標準化、教育、システム刷新など | 中長期で計画的に時間を確保し、最優先投資の対象にする |
| C | 緊急だが重要ではない | その場しのぎの依頼、効果の低いイベント参加など | 極力「断る」「自動化する」「外部に委託する」 |
| D | 緊急でも重要でもない | 惰性で続けている社内施策、評価されていない取り組み | 原則やめる。続ける場合はBへの格上げ条件を明確化 |
このマトリクスを経営会議や部門会議で共通言語として使うことで、「全部重要だから全部やる」状態から抜け出しやすくなります。
まとめ:施策は増やすより「選び抜く」
施策が多すぎて現場が追い込まれている状況は、個人の努力ではなく、施策の設計や意思決定の構造から生じるものです。やみくもに「頑張ろう」と鼓舞する前に、まずは全施策を棚卸しし、「施策インベントリ」として一覧化するところから着手してみてください。
そのうえで、
- 目的やKPIが曖昧な施策を洗い出す
- 「誰のための施策か?」を軸に4分類し、やめたときの影響を点数で見積もる
- 政策・制度、組織、現場、判断基準といった観点から、施策が膨らむ根本要因を特定する
- 新施策には必ず「終了条件」をセットし、「やめる」「縮小する」決定を定期的に行う
といった手順を、経営と現場が同じテーブルで進めていくことが欠かせません。
施策は増やすよりも「選び抜く」ことにこそ、マネジメントの価値があります。やることを減らし、本当に意味のある施策に集中できる環境をつくることで、現場の生産性と組織全体の持続可能性は大きく高まっていきます。
