マーケティング業務を自社と外注でどう切り分けるか判断のものさし

目次

マーケティング業務を「自社」と「外注」でどう切り分けるか

なぜいま、マーケティング業務の切り分けが重要なのか

人手不足とデジタル化の加速により、すべてを自社で賄うことが難しくなっています。一方で外注に頼りすぎると、自社の事業理解やノウハウが失われ、成果が継続しません。コスト効率と専門性の確保、そして事業戦略との整合性を両立するために、業務を明確に切り分ける必要があります。

特に日本では、労働人口減少と人件費高騰を背景にマーケティングBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)市場が拡大しており、「人手補填」としての外注から「プロセスを一緒につくるパートナー」としての外注へとシフトしています。単発の制作外注ではなく、戦略から実行、改善までを見据えた継続的な役割分担が求められます。

よくある「全部内製」「全部外注」の失敗パターン

全部内製の場合、人的負荷が一部に集中し、専門領域での質が低下しがちです。ツール活用や分析も追いつかず、非効率化が進みます。

全部外注の場合は、丸投げによって自社の価値訴求が十分に伝わらず、契約終了後にノウハウが残らないという典型的な失敗につながります。

実際に、ブログ運用やSNS運用を「片手間の内製」で続けた結果、更新が止まり成果が出ないケースや、逆に広告運用・コンテンツ制作を代理店にすべて任せ、KPIやペルソナ設計の議論をせずにスタートして成果が出なかったケースは多く見られます。重要なのは、「どこまでを自社の責任範囲にするか」を最初に決めておくことです。


マーケティング業務の全体像を見える化する

戦略〜実行〜分析までのプロセスを分解する

マーケティング業務は、戦略(市場調査・ターゲット・ポジショニング)→施策設計(コンセプト・クリエイティブ設計)→実行(制作・広告運用・配信)→分析・改善(KPI集計・施策修正)という流れで進みます。各プロセスを細かく列挙し、誰が何を担うかを可視化します。

このとき、「ツールで自動化できる業務」と「人が判断すべき業務」を分けると、切り分けの基準が明確になります。例えば、MAツールでのメール配信やスコアリング設定はテンプレート化できますが、KPIの優先順位付けや施策の取捨選択は自社の戦略判断が必要です。プロセスを分解し、「自社が意思決定するポイント」と「プロセス単位で外注できるポイント」を洗い出しておくと、その後のRFP作成やSLA設計もスムーズになります。

BtoB/BtoC・自社体制によって変わる「マーケ業務の地図」

BtoBではリード育成やインサイドセールスが重要であり、BtoCではブランドコミュニケーションや大量の施策運用が中心になります。組織の規模やDX成熟度によって、外注比率は大きく変わります。

例えばBtoBでは、MAツール運用やインサイドセールスをBPOに委託しつつ、ペルソナ定義や評価基準は自社で保持する「ハイブリッド型」が機能しやすい傾向があります。一方BtoCでは、広告運用・クリエイティブ制作を外注しつつ、ブランドトーンやキャンペーンの骨格は自社が設計するケースが多く見られます。自社の「現在の体制」と「目指したい体制」を地図として描き、そのギャップを外注で埋める発想が有効です。

自社で抱え込みやすい「隠れマーケ業務」とは

カスタマーサポートから得られる顧客の声、営業現場の知見、プロダクトの機能説明など、日常業務に埋もれている情報は戦略に直結します。ここを安易に手放すと、差別化要素が失われます。

これらは「文章化・構造化されていない状態」で社内に点在していることが多く、そのまま外注すると、自社理解が浅いコンテンツや広告クリエイティブにつながります。まずはCSログや営業メモを整理し、「FAQ」「ユースケース」「失注理由」などの形でナレッジ化しておくことで、外注先との情報非対称を減らし、精度の高いマーケティングBPOを組みやすくなります。


自社で担うべき「コア業務」とは何か

事業戦略と一体になっている業務

ターゲット設定、ポジショニング、価格戦略など、事業成果に直結する意思決定は自社で保持すべき領域です。外部はあくまで補助役にとどめます。

ここを外注してしまうと、短期的には負荷が軽く感じられても、競合と似たような戦略になりがちで、中長期の差別化が難しくなります。外注は、市場データの収集や競合分析のレポート作成など、意思決定の「素材づくり」を任せるイメージで活用すると、コアを維持しつつスピードも高めやすくなります。

自社でなければできない「顧客理解」「価値訴求」

顧客インサイトやユニークバリュープロポジション(UVP)の定義には、自社の現場知見が不可欠です。顧客接点から得られる情報は、外注に完全移譲しないようにします。

特にBtoBでは、「なぜ商談化しないのか」「なぜ受注に至らないのか」といった定性的な理由を、営業・CS・マーケティングが共有し、それをメッセージやコンテンツに反映することが成果を左右します。外注は、その解像度の高い顧客理解をもとに、表現やチャネル選定を最適化する役割と位置付けるとよいでしょう。

経営と直結する意思決定プロセス

ターゲット設定やポジショニングなど、経営判断や長期投資の優先順位に関わるテーマは、自社で最終決定し、外注には意思決定を補佐する資料や分析を依頼します。

例えば、新規事業の市場性評価やブランド再構築など、方向を誤ると大きな損失につながるテーマについては、社内で議論の場を持ち、外注は「ファシリテーション」「リサーチ」「シミュレーション」などの支援にとどめます。こうしたプロセスをあらかじめ明文化しておくと、外注先との役割期待値のズレを防ぐことができます。


外注した方が効果的になりやすい「非コア/専門業務」

専門性とスキルが必要な領域

SEO・コンテンツ制作

キーワード戦略や技術的SEO、量産と品質の両立は、専門業者が担った方が効率的です。ただし編集方針や最終的な方向性は自社が管理します。

検索アルゴリズムやコンテンツトレンドの変化は激しく、専任で追い続けるにはコストがかかります。そのためSEO代理店やコンテンツマーケティング代行に「構成案作成〜執筆〜入稿」までを任せ、自社は「テーマ決定」「最終レビュー」「成果モニタリング」に集中する形が、オウンドメディアのBPOでは一般的です。

広告運用(リスティング・SNS広告など)

運用の最適化やクリエイティブテストは、外注によるスケールメリットを活かしやすい領域です。一方で戦略設計は自社主導にする方が安全です。

日々の入札調整やクリエイティブ差し替え、媒体ごとの仕様変更対応などは、複数クライアントの運用実績を持つ代理店の方がノウハウを蓄積しやすい業務です。一方、「どのプロダクトをどの顧客セグメントに、どのLTV前提で投資するか」といった投資判断は、自社がKPI設計とセットで保持する必要があります。

MAツール運用・CRM設計

ツール導入やフロー設計は、外部の専門家が担当した方がスムーズに進みます。運用ルールやデータ設計は、自社と外注が共同で作ると定着しやすくなります。

導入フェーズでは、シナリオ設計やスコアリングロジックを外部に任せつつ、「どのイベントをトラッキングするか」「どの属性を顧客マスターに残すか」といった設計思想は社内メンバーと擦り合わせながら進めます。こうすることで、契約終了後も自社で運用を継続しやすくなります。

インサイドセールス・リードナーチャリング

スクリプト設計やKPI設定は自社で行い、実務運用や一部のBPO化によってスケールさせる方法が有効です。

例えば、架電件数・接続率・アポ率などのKPIや評価基準、NGトーク・ブランド毀損リスクの定義は自社が行い、その枠組みの中でBPOベンダーがオペレーションを回す形です。定期的に録音やログをレビューし、スクリプト改善やターゲットリストの見直しを共同で行うことで、商談化率の改善とノウハウ蓄積を両立できます。

作業量が多く、スケールさせたいルーティン業務

記事制作・LP制作・バナー制作

量産が必要な部分は、品質を担保したうえで外注化し、編集・校閲は自社で残すのが基本です。

特にキャンペーン時期や新サービス立ち上げなど、一時的に制作物が増えるタイミングでは、外部パートナーのプールを持っておくと柔軟にスケールできます。テンプレートやガイドライン(トーン&マナー、NG表現、ブランドルール)を整備しておくと、外注しても品質のばらつきを抑えられます。

メール配信・レポート作成・データ整理

定型的な作業は外注で効率化し、インサイト抽出や次の打ち手の判断は自社が担います。

例えば、週次のレポート作成やダッシュボード更新、キャンペーンリストの抽出・名寄せなどは、外部のオペレーションチームに任せやすい業務です。そのうえで、「どの数字の変化を重点的に見るか」「次にどの施策を打つか」という判断はマーケティング責任者が行うことで、戦略と運用の一貫性を保てます。


自社か外注かを判断する「4つのものさし」

ものさし1:事業への影響度(コアか非コアか)

その業務が事業の差別化に直結するかどうかを基準に判断します。

差別化に直結する「戦略・ブランド・顧客理解」は自社寄り、汎用化しやすい「制作・運用・分析オペレーション」は外注寄り、と大枠を決め、その中間にグレーゾーン業務を位置付けると整理しやすくなります。

ものさし2:社内に十分なスキル・ノウハウがあるか

社内にスキルが不足している場合は、当面は外注で補いながら、同時に内製化計画を立てます。

例えば、初年度は広告運用を代理店に任せつつ、社内担当者がレポートレビューや打ち手のディスカッションに必ず参加し、2年目以降は一部媒体を自走できるようにする、といった「段階的な内製化ロードマップ」を描いておくことで、長期的な依存状態を防げます。

ものさし3:工数・コストとスピード感は見合うか

短期的にスピードが必要な場合は外注を、長期的なコスト最適化を重視する場合は内製を検討します。

特に新規事業立ち上げや大型キャンペーンなど「時間が勝負」の局面では、多少単価が高くても外注で一気に立ち上げ、その後軌道に乗ってから内製比率を高める選択も現実的です。逆に、恒常的に発生する業務であれば、内製化して固定費として最適化した方がトータルコストを抑えられる場合もあります。

ものさし4:中長期で自社に残したいケイパビリティか

中長期的に自社に残したい戦略的能力かどうかを基準にします。

例えば、「データドリブンで意思決定する力」「顧客インサイトを言語化する力」は、将来の事業ポートフォリオにも効いてくるため、時間をかけてでも社内に残す価値があります。一方、「特定の広告媒体の運用ノウハウ」のように、プラットフォーム側の仕様変更で陳腐化しやすいスキルは、外部専門家に任せた方がリスクも低くなります。


判断を誤りやすいグレーゾーン業務の考え方

コンテンツ制作:企画は自社・制作は外注が基本線

コンテンツの企画や編集方針は自社で担い、執筆やデザインは外注で回すのが再現性の高いパターンです。

このとき、「どの程度まで外注に裁量を渡すか」を事前に決めておくことが重要です。例えば、「タイトル・構成案までは外注に任せるが、テーマ設定と狙うKPIは自社が定義する」「ペルソナとカスタマージャーニーは自社で作り、コンテンツマップへの落とし込みから先を外注する」など、線引きを明確にしておきます。

広告運用:戦略設計は自社、運用実務は外部

ターゲットやKPIは自社で決め、日々の入札やABテストは専門家に委ねる形が現実的です。

グレーになりやすいのは、「クリエイティブの方向性」と「配信チャネルの選定」です。ブランド毀損リスクを避けるため、訴求メッセージのNGラインや、出稿したくない媒体・枠の条件(例:アダルト系コンテンツの横には出稿しない)を事前に共有しておくと、丸投げ感を減らしつつ専門性を活かしやすくなります。

SNS運用:方針・人格設計は自社、投稿作業は外注も可

ブランドのトーンと危機管理ルールは自社で管理し、投稿や素材作成を外注する体制をとる企業も多くあります。

特に炎上リスクが高い領域では、「どのコメントにどの範囲で返信するか」「炎上の兆候をどうエスカレーションするか」といったルールを文書化し、外注側と共有しておくことが重要です。日々の投稿カレンダー作成や画像制作は外注しても、週次の振り返りと方針の見直しは自社主導で行うと、バランスが取りやすくなります。

MA・CRM:設計は共同で、運用の一部をBPO化

設計フェーズでは自社と外注が密に連携し、運用ルールを文書化したうえで、一部業務を委託します。

例えば、「シナリオの追加・変更は自社が行い、リストのメンテナンスやスコアのチューニング作業はBPOに任せる」といった分担が考えられます。導入初期に「KPIレビュー会議」「改善提案の提出サイクル」を取り決めておくと、データドリブンな改善サイクルを共同で回しやすくなります。


「丸投げ外注」にならないための切り分け実例

フェーズ別の役割分担イメージ

戦略・企画フェーズ:最終決定は自社、調査・分析は外注

市場調査や競合分析は外注し、意思決定は自社が行います。

このとき、RFP(提案依頼書)で「欲しいアウトプットの形式」「分析粒度」「前提条件」を明確にしておくと、自社内で意思決定に使いやすい形で情報が上がってきます。

施策設計フェーズ:コンセプトは自社、制作は外注

コンセプトの承認は社内で行い、具体的な制作は外注で効率化します。

例えば、「誰に・何を・どう伝えるか」の3点セットを自社で決め、それをもとに外注側がLP構成案やバナー案を複数提案する、といった役割分担です。コンセプトドキュメントを作っておくと、担当者が変わっても一貫した制作が可能になります。

実行・運用フェーズ:成果確認は自社、運用は外注

日次の運用は外注し、週次・月次で成果確認と方針修正を自社で行います。

レポートフォーマットや報告頻度、緊急時の連絡フロー(例:CPAが一定値を超えたら即連絡)をSLAとして合意しておくと、「任せっぱなし」になりにくくなります。

分析・改善フェーズ:打ち手の意思決定は自社、データ分析は外注

高度な分析は外注で実施しても、改善策の採用は自社が判断します。

外注には「仮説とその検証結果」「想定インパクト」をセットでレポートしてもらい、自社側はその中から投資対効果の高い打ち手を選ぶ役割を担うと、現実的な分担になります。

成功パターン1:オウンドメディア運用のハイブリッド体制

編集方針とKPIは自社が定め、記事作成とSEO実務を外注することで、半年程度で安定した流入と内製化計画を両立した例があります。

具体的には、初期6〜12か月は外注がコンテンツ制作の大部分を担い、その間に自社メンバーが企画会議・校閲・レポートレビューに参加してノウハウを吸収します。1年後には、自社で一定数の記事を制作できるようになり、外注比率を下げつつコストも約30%削減したケースなどが見られます。

成功パターン2:インサイドセールスBPOとの二人三脚

スクリプト設計と評価基準は自社が行い、発話実務と一次対応をBPOに任せることで、効率的に商談化率を改善したケースが多くあります。

例えば、自社が「理想的な商談化条件」や「NGリスト」を定義し、それに沿ってBPOがリード接触から一次ヒアリングまでを実施します。月次で録音をもとにレビュー会を行い、スクリプトやターゲットリストを改善していくことで、属人化を防ぎながらパフォーマンスを向上させています。


ありがちな失敗パターンと「切り分け」見直しポイント

よくある失敗1:外注先に丸投げして自社にノウハウが残らない

対策としては、ナレッジトランスファー(KT)と並行運用を行い、契約書で引き継ぎ要件を明確にしておくことが重要です。

例えば、「月次で運用ノウハウの共有会を実施する」「終了時に運用マニュアルとデータ一式を納品する」などを契約書に盛り込みます。自社担当者が会議に参加せず、レポートも流し見している状態は丸投げのシグナルと捉え、早期に見直すべきです。

よくある失敗2:外注範囲があいまいで責任の所在が不明確

対策として、RACIやSLAで役割を明文化し、成果責任を明確にします。

「リード数の責任はどこまで代理店か」「LPのCVR改善はどこまで自社の素材提供の責任か」など、グレーな領域ほど事前に文書で線引きをしておく必要があります。定期的にRACI(誰が責任者で誰が実行者か)を見直し、組織変更や施策変更に合わせてアップデートすることも重要です。

よくある失敗3:KPI・評価基準が共有されていない

対策として、KPIツリーとレポート仕様を事前に合意し、定期レビューを必須とします。

「月間リード数」「MQL数」「商談化率」「受注率」などの指標定義が両者でズレていると、成果の評価も噛み合いません。KPIツリーを一緒に作成し、どの数字を誰が改善するのかを合意しておくことで、PDCAが回しやすくなります。

失敗を防ぐためのチェックリスト(契約前に確認したい項目)

  • 目的とKPIは明確か
  • 業務範囲と除外範囲は一覧化されているか
  • 引き継ぎ・ナレッジ移転の要件は契約に含まれているか
  • NDA(秘密保持)や知的財産権、成果物の帰属について合意されているか

マーケティング業務の切り分けで押さえたいポイントは、「何を任せるか」よりも「どこまで自社が握るか」を先に決めておくことです。

事業戦略・顧客理解・ブランドの方向性といった中枢部分は自社が持ち、制作や運用など汎用化しやすい領域は外部の専門性やスケールを取り入れる。グレーゾーンは、「事業への影響度」「社内スキルの有無」「スピードとコスト」「中長期で残したい能力」の4つのものさしで線引きしていきます。

そのうえで、RACIやSLA、KPIツリーを使って役割と責任を文書化し、「丸投げ」や「あいまいな期待」を残さないことが欠かせません。外注パートナーとの定期レビューとナレッジ移転を仕組みとして組み込み、自社に経験と知見が蓄積される状態をつくっていきましょう。

自社と外部の境界線は、一度決めたら終わりではなく、事業フェーズや体制の変化に応じて見直す前提で設計することが肝心です。今日の業務を洗い出し、4つのものさしで一度棚卸してみるところから始めてみてください。

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この記事を書いた人

Webマーケティング業界10年以上のフリーランス。
「低コストでも、効果のあるWebマーケティング」をご提供することをモットーに、多岐にわたる業種の会社さまのご支援を行っております。
※2025年1月に法人化しました。